6.
もう何人目かも分からない婚約者。
彼は身勝手で高圧的、わがままも凄い人物であった。
口を開けば私を貶めるような言葉ばかり発する彼のことは好きではなかった。
当たり前だろう、暴言ばかり吐いてくる悪意しかないような人を婚約しているからといって好きになんてなれるはずもない。
顔を合わせれば「今日も顔面ダサいな」「安定の不細工」などとまるでそれが挨拶であるかのように言ってくる。
一緒にいる時にはやたらと命令してきて、しかもその内容がまったくもって意味のないものばかり。
やむを得ない事情で二人で出掛ければ出掛けている間ずっと「お前みたいな女、婚約していなかったら絶対一緒に道歩いたりしない」とか「お前の隣を歩くのは恥ずかしい」とか失礼なことばかりぼやく。
だが、そんな彼は、ある日突然この世を去った。
彼はその日床屋に言っていたのだが、散髪してもらっている時にちょうど強盗が押し入ってきて、その強盗に人質にされたうえやがて傷つけられた。
そしてその傷が原因となり一日も経たないうちに落命したのである。
彼の死によって婚約は自動的に破棄となったのだった。
この件に関しては、それまでの婚約破棄とはパターンが異なっていた。
でも辛さはない。
だって彼に関しては欠片ほども好きでなかったから。
……いや、むしろ、もう彼に会わなくていいということで安堵するばかりだ。