64.
マットレとの関係は終わり、私はまた、束の間の穏やかな時間を楽しむ。
だがそんな穏やかな時間もいつかは終わりを迎えることとなる。
また次の縁が舞い込んでくる。
それは親戚の知り合いの息子さんである男性ロッケーラとの婚約であった。
「はじめまして、リリジーナと申します」
「…………」
「ええと……ロッケーラさん、ですよね?」
「……ん」
しかしこれまたクセの強い人だった。
四十代なのに大量のぬいぐるみに埋もれるようにして常に過ごしており、表情は一切変えず、話しかけてもほとんど返事してくれない。
「私、あなたの婚約者となりました、リリジーナという者です」
「…………」
「えっと、聞こえてます?」
「…………」
……なんで無視すんねん!
「これからよろしくお願いしますね」
「……ん」
「ありがとうございます。これから少しお茶でもどうです? あなたのことも知りたいですし」
明るく振る舞うよう努力してそんな風に言ってみるも。
「要らん」
低い声でばっさり拒否されてしまった。
「えっ……」
「…………」
「そうですか、お嫌なのですね。では仕方ないですね、無理にとはいきませんし」
「…………」
会話が成り立たなくて辛い……。
そんな私と彼の関係だが、婚約後間もなくロッケーラが失踪したことで破棄となった。
いやいやいや、ほんと、何だったんだ……。




