63.
リリジーナの次なる婚約者はマットレという青年だった。
彼は見た目の面では非常に優れている。整った目鼻立ちをしているのだ。この国においてもかなり珍しいくらい、なぜ一般人として生きているのだろうと疑問に思うくらい、彼の容姿はレベルが高い。
そして、そんなだから、女性からの人気もかなり高い。
だがそれがマットレの人間性を劣化させてしまっているという部分は大きいだろう。
彼は過剰な自信家。
そして女性なら誰もが自分に惚れて言いなりになるものだと思い込んでいる。
馬鹿みたいな話だが、彼は純粋にそう信じているのである。
そんな彼はことあるごとに「君だって俺と婚約できて嬉しいんだろ? 本当は」とか「照れてないで素直になれよ、捨てられるぞ?」とか「もっと奉仕しろよ、俺とずっと一緒にいたいのならな」とか言ってきていた。
そしてこちらがそれを否定すると癇癪を起こす。
……非常に厄介な青年だ。
幼稚なだけならまだましなのだが、可愛げもないときているから、なおさら不快だし関わっていて辛い。
そんな彼は、ある時、他の女性に手を出し子を宿らせた。
「そんな感じだから、婚約破棄するわ」
「向こうのご両親にそうするよう言われたのですね? まぁ、確かに責任というものがありますし、当たり前といえば当たり前ですが……」
子が宿ったということはこれから責任を持ってその子のために生きなくてはならないということ。
つまりこれまで通り私との関係を継続することはできないということだ。
「う、うるさい! 馬鹿にするな!」
「……馬鹿に? していませんよ、そんなの。馬鹿に、なんて」
そう言うけれど。
「いいやしてる!! 馬鹿にしてる!! この俺を! 引く手あまたな美青年であるこの俺を、マットレを、見下したような態度をとるとは何事だ! お前ぇぇぇ……酷すぎるぞ!! いい加減にしろよ!!」
マットレはもう冷静さを完全に失っていた。
「ふざけるなふざけるなふざけるな! ふざけるなよお前! 低級女のくせにこの俺を馬鹿にし見下しとは一体どういう神経をしてるんだ!? ぐりゅおおぁぁぁぉ!! 下はそっちだ! 俺は偉い、俺は上! 上なんだよおおおお!! 常に、常に、そうなんだ!! 誰も俺を見下すことなんてできないんだあああぁぁぁ!!」
数時間にわたって叫び続けたマットレは突然倒れ死亡した。
血管破裂による死だったようだ。




