59-1.
私、アイニーティアは、当分男性と関わらないようにしようと考えた。で、その思考に従って行動していたのだが、それでもなお悲しき運命からは逃れられず。またしても私と婚約したいと話す男が現れた。
「ロックさんはお優しいですね」
「そうですかね? 特に……自覚はないですが。そんなものかと」
「ですが、これまで私の前に現れた男性は皆、私に対して心ないことを言ったりしたりしました」
彼ロックは良き人だった。
魔法使いだったけれど。
でもその能力に驕るような人物ではなかった。
「アイニーティアさん、今度、良かったらなのですが……」
「何でしょう?」
「海、見に行きませんか」
だから私の心も少し動き始めていた。
そんなこと、あるわけがない。誰かを愛せるなんて、誰かに愛されるなんて、そんな普通の幸せを手に入れるなんて……そんなこと、できるわけがないのだ。実際、私はずっと失敗してきた。まともに愛されることはなく、酷い仕打ちも多々、そんな人生だった。そんな私が幸せを掴む……? あるわけがない、そんなことは。大切にされる? 愛してもらえる? ……そんなのはくだらない夢、幻想だ。もちろん結婚なんてできるわけがない。そんな世界がひっくり返るようなことが起こるはずがない。なんせこれまで数えきれないくらい失敗を重ねてきたのだから。絶望ばかりの人生だった。何度生まれ変わっても。そんな私が幸せを求めるなんて期待するなんて……愚かなこと。
でも。
「海、ですか」
「嫌でしたか?」
「いえ……」
「では」
「行きたいです、海」
私は期待してしまった。
彼と共に道を歩むという未来を。
「良かった……!」
安心したように笑うロックを見ていたら、一緒にいたい、と思えてきて。
「では日を決めましょうか」
「あ、はい。そうですね。ロックさんはいつが良いですか?」
「ええと、そうですね……」
馬鹿なことと思いながらも、幸福への道という幻同然のものに期待してしまう。
「……はい、そうですね、はい、ではその日で」
「決まりですね!」
「とても楽しみです」
「そ、そんな、照れます」
「ロックさんとお出掛け、楽しみです」




