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58.
「アイニーティア! 貴様との婚約、破棄とする!」
婚約者チィレルはある日突然そんなことを大きな声で宣言してきた。
「なぜですか……?」
分かっている、私の運命のせいだと。
でも冷静過ぎても変なので。
一応少しは困惑しているふりをしておいた。
「貴様に魅力を感じなくなったからだ」
「魅力……」
「聖女というならもっと魅力的かつ奉仕の心を持った女かと思っていたのだ」
「そう、ですか……」
「だが貴様はクズだった!!」
「ええっ」
「特に、奉仕の心がないのがイタい。聖女なら普通は婚約者に一番奉仕するべきだろう、でも貴様はそれをしない……あり得ないことだ、愚かの極み」
チィレルはやたらと長文で私を批判してくる。
「だからもう貴様には付き合わないことにした」
こうして婚約破棄されてしまった私だったが、その数日後チィレルが何者かに殺されたと聞いて「離れておいて良かった」と心の底から思った。




