5.
「君さぁ、何回も婚約と婚約破棄を繰り返してるんだって? 仕方ない女の子だなぁ。じゃ、僕が君と婚約してあげるよ! 僕ならそんな変わった君とでも上手くやっていけるからさ。あ、感謝してね? 普通何回も婚約破棄された女の子と婚約なんてしないものなんだからね!」
とあるカフェで知り合い、一度言葉を交わしてから、やたらと絡んでくるようになった二つ年上の彼。
気さくで面白みのある人物ではあるのだけれど。
ただ、なぜかやたらと上から目線なところがあって、まるで面倒臭いおじさんである。
そんな彼と婚約することになってしまったのは、彼からのアプローチが凄まじかったから。あまりにも激しいアプローチだったので逃げきれず、捕まってしまい、それで今に至っているのである。
だがそんな彼との関係にもやがて終わりはやって来る。
「君、僕に忠実じゃないよね。一緒に生きていく気、本当にあるの? 本気で生涯を共にしようって考えてる?」
「忠実、って……そんな言い方は少しどうかと思うのですが」
「はぁ!? 僕に口答えするってのかい!? コラアアアァァァァァァ!!」
怒れる怪獣のように叫び出す彼を見ていたら、この人とは無理かな、なんて思ってきた。
「天使のように優しい、君みたいな出来損ない女にも親切な、そんな僕に口答えするのかぁぁぁぁぁぁぁ!! あり得ない! あり得ないぞおおぉぉぉぉぉ!! やはり君はどうかしている! 明らかにおかしい! ……はー。ま、もういい。僕はこれ以上君の相手はしない。婚約は今この時をもって破棄だァァァァッ!!」
こうして婚約は破棄となったのだが、その次の日の昼下がりに彼は何者かに殺された。
彼はその日仕事がなかったために自宅でのんびりしていたそうだ。だがいつの間にか自宅から消えて。彼の両親が違和感を覚えた時には彼の姿は自室内にはなく。で、慌てて捜索していたところ、亡骸となった彼が玄関先にそっと置いてあったそうだ。
一体何があったのだろう……。
もちろん私は無関係だ。
人を殺すなんて私にはできない。