55.
自由を得られる時はまだ来ない。
というのも、サンジェスから解放された途端に四男であるヨーシェフに追いかけ回されるようになってしまったのだ。
ヨーシェフは凄まじいアプローチを仕掛けてきた。
そしてやがてほぼ無理矢理くらいの勢いで私との婚約を成立させたのであった。
「これから~、いっしょに~、なかよくくらそうね~」
ヨーシェフは婚約が成立して一人満足そうだった。
でもこちらとしてはちっとも嬉しくない。
だって、ほぼ強制みたいなものだし、はめられたも同然での婚約だから。
「まいにちを~たのしもうね~」
そんなヨーシェフだが、ある日の晩、街から帰ってきている途中に石につまづき転倒し付近に鎮座している大きめの岩で頭を強打して落命した。
ヨーシェフの最期は笑えてしまうほどにあっさりとしたものであった。
だが学びもあった。
それは、頭を打つのは危険だ、ということである。
頭を強く打つというのは人間という生物にとってかなり危険なことなのだと知った。
……いや、知らなかったわけではない。
そういうことは幼い頃に大人から教わるもの。誰だってそうだ。よほど劣悪な環境で育ったのでない限り、大抵、その程度の知識は持っているだろう。
ただ、改めてその恐ろしさを感じたのである。




