52.
アイニーティアは何度も繰り返す。
婚約と婚約破棄を。
それは一般的な視点から見ると明らかに不自然な流れであり、だがしかし事情が事情なので仕方がない部分もあって……それゆえその点を悪く言ってくる人はほとんどいなかった。
「惚れました! アイニーティア様!」
そんな私にいきなり想いを告げてきたのは、そこそこ歴史ある家の子息で次男であるジレット。
「僕とお付き合いしてください!」
「え、ええっ……」
「僕は本気です。結婚を見据えています。貴女と共に生きてゆきたい、そう本気で考えています」
「あ、あの……その……ちょっと、いきなり過ぎて……」
ジレットは押しの強い男性だった。
「どうかお願いします! 考えてください!」
「そう……ですね、少し考えさせてくださいますか」
「はいもちろん!」
「……ありがとう、助かります」
その後私はジレットと交流を始めた。
彼と過ごす時間は楽しかった。
なんせ彼は話が面白い。
だから一緒にいてまったく退屈しないのだ。
だがしばらくして彼に婚約者がいたことが判明。
「ジレットはわたくしのもの! 離れて!」
「私は騙されていただけです」
「何ですって?」
「ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした。ただ、私は、本当に貴女の存在を知らなかったのです」
この際もうすべて明かしてしまおう。
そう考えて、私は、真実を包み隠さずに話した。
「なんにやってんだあいつうううう……!!」
婚約者の女性は私の話を信じてくれた。
「ま、分かったわ。貴女に非はないということね。あのバカ男が迷惑かけてごめんなさいね」
「いえ……」
「あいつは徹底的にしばいておくから、許してくださる?」
「もちろんです。そして……謝るのは私の方です。申し訳ありませんでした」
その後彼女によって徹底的にしばかれたジレットは自由に出歩けない身体になってしまったようだった。




