51.
三人目の婚約者は知人の紹介で巡り合った人だった……のだが。
「お前なんて嫌いなんだよッ」
彼は初めて対面する日にいきなり香辛料を溶かした水をかけてきた。
「ぁ、え……」
「キモいんだよ聖女!」
「な、なぜ……こんな、どうして……」
目がヒリヒリしてしまう。
「嫌いなんだよ! お前のことなんてどーっでもいい。てか、嫌い! ムリ!」
「ええと……婚約する気なのではなかったのですか……?」
「親の借金のせいだよ。それのせいでお前と婚約させられることになっちまったんだ。あー! あー! 最悪だー!」
どうしてそんな……。
あまりにも酷い……。
事情があるのは分かった。でも、だからといって、こんな酷いことをする必要があるのか? 香辛料入り水をかけるなんて。そんなことをする必要はあった? 事情も、心情も、言葉で説明すれば良かったのではないの?
「分かりました、では、婚約はなかったことということで」
「……いいのか?」
「ええ。無理に、など、私は望みません」
すると彼は。
「ぃよぉーっしゃああああッ!!」
歓喜の叫びを発した。
「よぉーっしゃよっしゃ! よぉーっしゃよっしゃ! よぉーっしゃよぉーっしゃよっしゃしゃしゃっしゃっしゃっ! よぉーっしゃよっせ! よぉーっしゃよっせい! よっしゃしゃしゃっしゃっしゃっ! はい! よっしゃしゃしゃっしゃっしゃっ! ぉっ、はい!」
それから三日ほどが経って、彼はうっかり毒きのこを食べてしまったために落命した。
やりたいこと、未来への希望、たくさんあっただろうに……。
でも、可哀想とは思わない。
だって彼は心ない人だったから。




