48.
「フローリニア、お前、いーとこねーよな」
婚約者ロメックスは感じの悪い男性だ。
会うたびに嫌みというか悪口というかそういったことを言ってくる。
どうしてそんな心ないことができるのだろう、と、いつも密かに思っている。
だってそうだろう? 一応婚約者なのに。彼から見れば私は婚約している相手なのに。それなのにどうしてそこまで傷つけるような発言をできるのだろう? どうしてそんな心ないことができるのだろう? ……私には理解できない。傷つけるようなことばかり言っては可哀想だな、とは思わないのだろうか。
彼は何度も私を傷つける。
繰り返すのは「お前がもーっと魅力的だったらな、毎日楽しかっただろーになー」とか「俺不運だよなー、お前みたいなやつが婚約者で。気の毒男子だよなー」とかそんな言葉ばかり。
彼は私を傷つけることしかしない。
朝も、昼も、晩も、どんな日も、私を見かければ彼は平気で傷つけようとしてくるのだから……酷すぎる。
そんなある日。
「お前との婚約、破棄するわ」
ロメックスはついにそんなことを言ってきた。
でも悲しくはない。
むしろ嬉しいくらいだ。
「婚約破棄、ですか……」
「ああそうだ」
「分かりました!」
ここは笑ってやろう。
こういう時にこそ嫌みを。
敢えてひたすら明るく。
「では、さようなら!」
こうして私たちの関係は終わった。
これでもうややこしいことを言われなくて済む、そう思うだけで気が楽になる。
少なくとももう傷つかなくていい。
それはとてもありがたいこと。
爽やかな気持ちだし、解放感が凄いし、鼻歌が出てしまいそうなほどだ。
その後ロメックスがどうなったかというと。
雨の日に山道を歩いていたところ足を滑らせて谷へ落ちてしまい、その際に強く打った部位が悪かったために亡くなったそうだ。
彼はもう、この世界で生きることはできない。




