44.
「ん」
それはある昼下がり。
「え……って、ひいいいいっ!!」
婚約者ロデールに肩を触られたと思ったら、まさかの。
「は、は、鼻くそおおおぉぉぉぉぉぉッ!?」
暗い緑色の鼻くそを擦り付けられていた。
即座には理解できなかった。
何が起こったのか、脳が真実へはたどり着けない。
「ぎゃああああああああ!!」
突然のまさかの行動。
思わず叫んでしまって。
それによって、ロデールの母親から叱られてしまった。
「貴女ねぇ! うちの息子の行動にいちゃもんつけるんじゃないわよ!」
ロデールの母親は怒りに燃えていた。
「で、で、でも……、いきなり……鼻、くそ……」
「可愛いロデールの鼻くそだからましでしょ!!」
「え、ええ、え……ええー……」
「貴女はロデールの婚約者なのよ? 分かっているの? 婚約者なんだから、婚約してあげているのだから、そのくらい我慢しなさいよ! 些細なことじゃないの!」
めちゃくちゃな理論過ぎる……。
鼻くそをつけられるなんて誰だって嫌だろう……。
だがその翌日、ロデールと両親は馬車の事故に遭いこの世を去った。
そして婚約は自動的に破棄となったのだった。
だが今も思う。
あの行動は何だったのか?
そして母はなぜ怒ったのか?
……そんな風に。
だって、いくらなんでもおかしいだろう、他者に鼻くそを擦り付けるなんて。
普通はそんなことはしない。
子どもならまだしも。
なのに、それを嫌がっただけでこちらがあそこまで怒られるだなんて、もう到底理解できる範囲の話ではない。




