42.
婚約者ローレンズはいろんな意味で癖が強い。
「リタ、君との婚約だが本日をもって破棄とすることにした」
彼はやたらとたくさんルールを作ってくるのだ。しかもその内容が、一日に六十回キスをすることとか背中を舐めることとかいった意味不明なものばかりなのである。そしてそのルールを守らないと凄まじい形相で睨んでくる。なぜか無言で。
「君は僕に毎日キスしてくれないだろう?」
「え」
「ルールを守れない女は嫌いなんだ」
「えええー……」
どうしてそんな意味不明なルールをたくさん作れるのだろう?
しかもそれを真剣に考えていられるのだろう?
……謎でしかない、理解不能だ。
ローレンズのことはよく分からない。でもきっとこれは永遠にであろう。彼を理解できる日は来ない、そんな気がする。話し合えば分かり合える、なんて甘いものではない。
そんな彼は、私との婚約を破棄した日の夜、自宅の廊下を全力疾走していて転び舌を酷く噛んで落命した。
ローレンズは私を捨てたが、ローレンズは神に見捨てられた。
明るい未来を手に入れられなかったのは私ではなく彼のほうだったのだ。




