3.
なぜか分からないが近寄ってきた六十歳の男性と婚約することになってしまったのだが、最初は優しい紳士だったので「これもまた運命か、ならそれでも構わない」と受け入れていた。
しかし婚約後少しすると彼の言動は変わった。
優しかった、思いやりのあった、紳士的だった、そんな彼はいなくなってしまった。
彼はことあるごとに私を批判する。
ある時は「君は本当にいつも情けないね。やはり今時の娘は駄目だな、経験が浅すぎる。だから魅力も浅いものしかない」などと言われ、別のある時は「礼儀正しい女性、淑女が好きなんだ。私が好きなのは君のような凡人ではないのだよ」と嫌みを吐かれ、また別の時には「どうして君はそんなにもいつもパッとしないのかな。……そんなで私につり合うと本気で思っているのかい?」などと言われたりもした。
彼は私をサンドバッグか何かと勘違いしているようだった。
そしてやがて。
「やはり今時の若い娘とは気が合わない。よって、婚約は破棄とさせてもらうことにしたよ」
そんな風に別れを告げられてしまう。
彼は白髪混じりの頭を片手で掻きながら最後まで私に対する不満を並べていた。
「とにかく君は華がない。女性というのは慎ましさの中に華があってこそ、だろう? それが君には足りないんだ。いや、足りない、ではない。ないんだ。無。だから一緒にいると気が滅入ってしまうんだ。女性は華なのだから、若いのだしもっと華やかでなければ。そうでなければ女性である意味がないし女性としての価値も皆無だ」
婚約破棄に際して全力で批判されてしまった……。
でももう三度目。
さすがに慣れてきた。
あの頃のような悲しみは、もうない。
ちなみにその男性はというと、私と別れた後一人の女性に惚れ込んだそうだが女性には欠片ほども愛されておらず贈り物をくれる男としていいように使われていただけだったそうで。贈り物のし過ぎで男性の資金が尽きると、女性は男性のことをぼろくそに言ってから永遠の別れを告げ去っていったそうだ。
そして彼は心を病んでしまった。
あれほどまでに暴言を並べていた彼だが今は毎日一人ぼっちで泣いている。