36.
「リタ! おはよう!」
「おはよう、ヴェール」
二人目の婚約者ヴェール、彼は明るい人だった。
会うたびまばゆい笑みを向けてくれる。
そんなところには正直惹かれていた。
「今日はどこ行く?」
「そうね、うーん、ええと……庭園、とか?」
「いいね! そうしようか!」
「行きたいな」
「じゃ、行こう!」
一つ年上の彼はお兄さんみたいだった。
いつも、どんな時も、柔らかく温かく接してくれるので大好き。
……いつか終わりが来ると分かってはいても。
それでもなお、彼との未来を歩みたいと思うほどだ。
でも私は知っている。幸せは長くは続かないものなのだと。私が私である限り、幸せな未来を掴むのは難しいこと。それは何度生まれ変わろうとも変わらない絶対的な理だ。
この幸せは束の間の幸せでしかないのだ。
◆
「ごめん、リタ。婚約、破棄する」
「え……」
その日はやはりやって来た。
「結婚したい別の人ができてしまったんだ」
「……やっぱり」
「へ?」
「……ううん何でもない」
彼は別れしな笑った。
「そっか! じゃあね。今までありがとう、ばいばい!」
最後まで彼は明るかった。
でも、別れの時くらいは、少しでも陰りを見せてほしかった。
私と別れることなんて痛くも痒くもない、そう言われているみたいで……どうしても辛いのだ、心が切なげに軋む。
それから少しして、ヴェールは落命した。
惚れていた女性の前でかっこつけて大量の酒を飲み、その帰り道、階段から足を踏み外して転落。
そのままあの世へ行くこととなってしまったようであった。
酔っ払いすぎは時に命をも奪う、そのことを彼の最期に教えられた。




