35.
フィリーナは亡くなった。
しかしその人生はそれほど悪いものではなかった。
なぜって、どんな時もエリザベスが傍にいてくれていたからである。
爽やかで、軽やかで、明るい。そんな彼女と共にあった、だからこそ、私は何度婚約破棄されようとも落ち込むことなく生きることができたのだ。そしてそれは長く続いた。私の最期の時ですら、エリザベスはその傍にいた。彼女はフィリーナという人間をいつまでも見守り支え続けたのである。
二人は同性だし恋愛関係にあったわけでもない。
共に暮らしていたわけでもない。
けれども二人は特別にして唯一の二人であった。
◆
そしてまた新しい人生が始まる。
「あらあら、とっても可愛い子ねぇ」
母親と思われる人の声。
甘いそれで目を覚ます。
その時私はフィリーナではなくなっていた。
鏡に映る姿を見れば分かる。
私は赤子だ。
ついこの前まで生きていた姿ではない。
「リタ、元気に育つのよぉ」
母は愛おしそうに赤子である私を抱いた。
リタ。
それが今回の私の名前か。
そうしているうちに眠りの世界へと落ちてゆく……。
そう、私はまだ赤子なのだ。
だから長いこと起きてはいられない。
すぐに眠ってしまうのである。
◆
それなりの年になった私リタは親が勝手に決めた男性と婚約することとなった。
ほぼ強制の婚約。
けれども嫌だとは思わなかった。
だって婚約破棄されることを知っているから。
どうせすぐ終わる、ならば相手選びを慎重に行う必要などない。
……そして、その時はすぐにやってきた。
「わり! もっといーやつ見つけたから、終わりな!」
あっさりと婚約破棄された。
だがその彼もその数日後にあっさりこの世を去ることとなる。
何でも、出社中に落石事故に巻き込まれたらしい。




