32.
あれからまた別の人と婚約することとなったのだが、その人は四六時中タバコを吸うことしか考えていないような人物で、素行もあまり良いとは言えないような男性であった。
そんな彼は私といる時でも全力でタバコを吸う。
しかも敢えて煙が私の方へ流れてくるように考えて吸うので非常に厄介である。
タバコを吸うことそのものを否定するつもりはない。好みは人それぞれだから。タバコがあるから毎日生きられている、なんて人もいるかもしれないから、全否定しようとは思わない。
でも周りに迷惑をかけてまでやりたいことをやるというのはどうなのだろう。
少しは配慮すべきではないのか?
少しは気遣いというものが必要なのではないか?
申し訳ないが、彼の行動を良いものであると言って差し上げることはできない。
「お願いします。煙を敢えてこちらへ流さないでください。もくもくしていて不快です」
「は?」
「吸うなとは言いませんが、ご配慮お願いします」
「あーうぜーなぁ」
私たちの考えは明確に違っていた。
だから手を取り合うことなんてできるはずもない。
「もういーわ。婚約は破棄する。だりぃもん。お前なんて言うほど美人でもねーだろ、お願いなんて聞いてやるわけねぇだろーが」
自分勝手な彼との婚約はもちろん破棄となってしまったわけだが。
婚約破棄後、二週間も経たないうちに、彼はこの世を去ることとなってしまったのだった。というのも、タバコにつけようとした火が自身に宿ってしまったのである。本来なら一刻も早く消火するべきだったのだが、彼には消火の知識がなくて。そのため彼は燃えることとなってしまったのであった。
そう、彼は最期、自身がタバコとなったのである。




