31.
いつも通っている近所のアクセサリー店で店員をしている男性ロックウェルから想いを告げられ、婚約することとなった。
「貴女と共に生きてゆきたいです」
「……分かりました。ありがとうございます、ロックウェルさん、どうかこれからよろしくお願いいたします」
どのみち明るい未来なんてないだろう。
分かりきっていることだから期待なんてしない。
でも、それでも、いつも少しは思ってしまうのだ……ここが終着点かもしれない、なんて。
そんな都合の良いことが起こるわけがないのに。
そんな喜ばしい時が訪れるはずがないのに。
でも、それでも、夢をみる。
いつの日か誰かと結ばれて幸せに暮らしてゆくことを。
◆
「ロックウェルさん……浮気、なさっていたのですね」
婚約から数ヶ月、彼の浮気が判明した。
さすがに黙ってはいられず、意見を言わせてもらったのだが、すると彼は豹変した。
「ああそうだよ。でもそれが何? 浮気くらい誰だってしてる。男の性、みたいなもんだろ?」
これまでの優しく誠実さを感じさせてくれるような言動はどこかへ消え去ってしまった。
「いやいや……そんなことで誤魔化せないと思いますけど……」
「うるさいなぁ、何だよそんな小さいことでごちゃごちゃ言って。馬鹿じゃねえのか?」
「婚約者がいる身で浮気はどうかと思いますが」
「あーあーあー! そうかよ! ならもういいわ! お前なんか要らん、婚約は破棄だ!!」
こうしてまた、私は切り捨てられた。
◆
婚約破棄から一週間ほどが経った。
ロックウェルは浮気相手であった女性と婚約するも、それから五日も経たないうちに散歩中崖から転落し全身を打って亡くなったそうだ。
転落死、なんて、悲しいことだ。
でもそれは罪なき人であった場合のみ。
ロックウェルに関しては可哀想なんてちっとも思わない。




