23.
タロ、ジロ、ペロ、と来て。
次に婚約することになったのはヒポルクス家四男のシロ。
「いやあ、エリーミネさんかわええなぁ」
彼はどことなくおっとりした印象を与えてくるような人物だった。
ヒポルクス家の息子にしては比較的まとも。
それだけでとても良い人に思えたほどであった。
「今度一緒に釣り行かへん?」
「釣りですか?」
「うんうんそうやねん。一緒にやったら楽しいやろなぁて思て。どうやろ?」
「……良いですよ」
「よっしゃ! ほな決まりな!」
だからこそ、誘いにも乗ったのだが……。
「じゃ、早速、餌の役になってな! 活躍してくれや!」
船に乗った瞬間海に落とされてしまった。
さ、寒い! 冷たい! み、み、水がッ……!? ひええ、ぴええ、ぴゅわあぁぁぁぁ!! 変な声が出そうなくらい、冷たいし寒いし濡れるし! 助けてええぇぇぇぇ!!
「ほなでっかいん釣るでぇ~!」
「助けてください!」
「はあ? 何を言うてんねん。エリーミネさんは餌やて。せやかな餌として魚を引き寄せてぇな。かわいいからできるやろぉ?」
その後彼ではない男性に助けを求めて何とか船の上に戻ることができたが、それに不満を抱いたシロには婚約破棄宣言をされてしまったのだった。
結局シロもまともな人でなかった……。
何なら一位二位を争う危なさ……。
あのまま他の人に救助してもらえなかったら私は今頃死んでいたのではないだろうか。
だとしたら……本当に、本当に、危なかった。
それからしばらくひきつったような声しか出なかった。
あの経験があまりにも恐ろしくて。
同行者を船から落として餌にしようとするなんて、もはや、人間の所業とは思えない。
だがそんな彼は婚約破棄後間もなくこの世を去った。
一人船で釣りに出掛けていた時にうっかり転落してしまい、慌てて暴れすぎたために沈んでいってしまい、そのまま溺れたのだった。




