19.
親がいつの間にかアドルーンという男性との婚約を決めていた。
「美味しいわねぇ、エリーミネの淹れたお茶は」
「ありがとう!」
「はぁ……ほんっとうに最高だわ……これはもう完全に神」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
だが最近私は女友達とばかり同じ時間を過ごすようになっている。
「エリたんサイコー! これ美味しすぎじゃん!?」
「本当に?」
「もっちろーん! 嘘つくわけないでしょ? エリたんのお茶ほーんと好きー!」
なぜなら、それが気楽だからである。
「エリーミネさま、やはり、お茶を淹れるのがお上手ですわね」
「ありがとうございます」
「わたくしお茶のクオリティにはうるさいのですけれど……貴女の淹れられたお茶に関しては毎度満点を出しておりますわ」
「本当ですか……!」
「ええ、とても素晴らしくてよ」
婚約破棄とざまぁを繰り返すことに飽きて、何か別のことをしたくなってきたというのもある。
でも男性とは上手くいかない。
なら何をすれば良いのか。
そう考えた時に思いついたのが、同性と遊ぶということであった。
「このクッキー、美味し~い!」
「作ってみたの」
「え! エリちゃんの手作り!? これが!? うっそ、神すぎ!」
「口に合ったなら良かったわ」
「うんうん! めちゃ美味しいよ!」
同性とであれば婚約という話にもならないし婚約破棄も経験しなくて済む。それはつまり、嫌な思いを重ねることなく生きられるということだ。
「この茶葉、エリーミネさんにあげるわね」
「え、良いのですか」
「もちろんよ。貴女ならきっと素敵なお茶に仕上げられると思うから。だからこそ贈るのよ。貴女にこそ飲んでほしい、そう思って」
「では今日淹れてみましょうか?」
「あら! 名案ね」
「では頂戴いたします」
「あらあら、うふふ、楽しみになってきたわ」
だから同性とお茶をして楽しく過ごすといったことをしてみたのである。
ある意味運命への抵抗。
「エリリさぁ、めちゃ噂になってるよ。お茶淹れるの上手すぎるーって」
「それは……褒められているかしら?」
「もちろん! そうだよ! そうに決まってる!」
「なら良かった、ホッとしたわ」
……もっとも、あまりにも会わなかったために、アドルーンからは婚約破棄を告げる手紙を郵送されてしまったのだが。




