13.
「貴様との婚約なんぞ、継続できるわけがない!」
フォリアナになってからだけでも婚約と婚約破棄をいやというくらい繰り返してきた。だからもう何人目か分からないが、現在の婚約者は一部魔族の血を引くのだという男性であった。ちなみに彼は私より十以上年上である。
「我のプリンを食べただろう!」
「昨夜食べておいてくれって言っていたじゃないですか!」
「……はぃい?」
「貴方が『食べておいてくれ』と仰ったのです! ですから食べたのですよ!」
「嘘をつくな」
「えええー……」
彼との関係は順調だった。
今朝起きるまでは。
しかし今、私たちの関係はかなりの危機に瀕している。
……もしかしたらもう駄目かもしれない。
「フォリアナ! 貴様! どれだけ嘘をつけば気が済むんだ!」
「嘘などついていません!」
「ならなぜ我がそのことを覚えていないのだ」
「……酔っぱらっていたとかですかね?」
「ふざけるな!」
「でもお酒飲んでいらっしゃいましたよね」
「はぁ!? そんなわ……ぁ、や、ま、まぁ……多少飲みはしていたが……」
今になって弱気になる彼、だったが。
「と、とにかく! もうこの関係はおしまいとする! 貴様との婚約は破棄だッ!!」
数秒の間の後、そんな風に叫んできた。
ああもう面倒臭い……。
「分かりました、そこまで仰るならそれで結構です」
「可愛くないな」
「ま、そうですね。でもこんな理不尽な目に遭わされればこうもなるものですよ。理不尽な意味不明なことでいちゃもんをつけられ怒られとしていれば、そりゃあ、可愛くもなくなりますよ」
私との婚約の破棄から一ヶ月、彼は、勇者と名乗る謎の男たちによって殺められた。
男たちは魔族の血を引く彼のことを悪しき者であると思っていたようだ。魔族の血を引く者は完全な悪、そう信じ込んでいた男たちは、「悪を殺めて世界を平和にする!」などと叫びながら彼に襲いかかりその命を奪うまで暴行を加え続けたようである。
どちらが悪なんだか……。
だがまぁそれはある意味不運な事故とも言えるだろう。
彼が魔族の血を引いていたがための悲劇である。