12.
ある春の日、家の前で昼寝をしていたら、見知らぬ男に誘拐されていた。
そして婚約を強制された。
俺と生きると誓え、なんて高圧的に言われて。
「お前は今日から俺の婚約者だ、そして未来の妻だ」
「……はい」
「何だその顔、嬉しくなさそうだな」
「ええと……実はまだ理解が追い付いていないのです」
「はあ?」
「戸惑っているのです。あまりにも急展開で。すみませんが……しばらくはまだこんな感じかと思われます」
これは、まさかの、ついに結婚……!?
そんなことを思ったのも束の間。
二人きりの家に地域の警備隊の者たちが押し入ってきて。
「罪人め! くたばれ!」
「人質をとるなど悪魔の所業!」
「今すぐあの世へ行くのだ!」
「罪を悔いながらこの世界とお別れしなさい」
暫しの言い合いの後、男は射殺された。
「大丈夫ですか! お怪我は!?」
警備隊の者は私の身を気遣ってくれる。
「……平気です」
幸い私は無傷だ。
痛いことなんかはされていない。
「本当ですか? 何かされたのでは」
「俺と生きると誓え、とかは言われましたけど……その程度です。本当に。ですから心身が傷つくようなことはありませんでした」
「それは良かったです」
「お気遣いありがとうございます、感謝します」
「何かありましたら、後からでも、お伝えいただければご対応いたしますので」
「ありがとうございます」
ただ昼寝をしていただけなのに。
こんなこともあるのだなぁ、と、ぼんやりと思った。