プロローグ
それはまだ私が幼かった頃の話だ。
その日熱を出してうなされていた私は、夢の中で、自身を神であると話す存在と対面した。
『貴女にはこれから様々な困難が待ち受けているでしょう。それは恐らく、婚約破棄とざまぁを繰り返すという……非常に稀なもの。それから逃れることは不可能です。貴女はその運命を受け入れる外ないのです』
彼女はとても美しい女性であった。
もっとも、そういった姿で現れただけ、なのかもしれないが。
『しかし心配は必要ありません。……貴女には必ず、幸福な結末が待っているのですから』
長い銀の髪と睫毛が今も脳裏に刻み込まれている。
『婚約破棄とざまぁを繰り返すのです。それは定め、避けられるものではない……けれども、その日々こそが、貴女を幸福へと導くのですから。恐れることなどありはしないのです』
そこまで述べて、神と名乗る彼女は消えた。
とても不思議な夢だった。
ただ意外と不安になったり恐怖を感じたりといったことはなくて。
あれは何だったのかな? と軽く思うくらいのものでしかなかったので、その時が来るまで私は忘れていた。
……そう、婚約者より婚約破棄を告げられる日が来るまで。