作者さん、逃げてぇええええええ ~悪役令嬢ベアトリス其の1~
長編を書き上げた時の達成感って、たまりませんよね。
この作者は、書き溜めた中編を、まとめてUPしたみたいです。
「ふっふっふ、世紀の傑作を書き上げてやったわ」
私は肩をコキコキと鳴らして、小説データのUP作業を終え、PCを閉じる。
wifiが使える有名コーヒーショップで、冷めてしまったフラッペ&カプチーノを飲み干して、執筆道具を片付けたのだ。(フラ〇ペ〇〇チーノ。って書いたら商標権とか何とかで文句言われるとイヤだからね。感想欄は別にいいらしい)何やら天の声も聞こえた気がするが。
「外は、もう、暗いわね」
なんだろう、有名コーヒーショップでPCのキーを叩くのに憧れを抱いて試してみたら、見事にハマったのだ。ノマド&クリエイターっぽくて、自分が好きになる空間&時間だった。
「さて、帰りますか」
そう呟いて店を出た。小説は、会心の出来栄えだった。
最高の『ざまぁ』小説を提供したのだ。PVも、ブクマも、ポイントも大量に入れてもらえるに違いない。あぁ、感想欄も活発になるから返事を書くので、忙しくなるな……
ふんふふふ♪ふんっ♪ふふふふふふ♪ふ~ん♪
鼻歌を歌いながら、家への帰り道を私は歩く。この時間帯は、勤務を終えた女性読者層が通勤時間に小説をポチる時間。新作のザマァは、読んでもらえるに違いない。
と、そんなことを考えていると。
「そうね、読んでもらえているわね。今もすごく」
何か声が聞こえた。
振り返っても誰もいない。
気を取り直して歩きすすむ。
「とくにラストが、酷い、ひどい、ヒドイ……」
また、声が聞こえた気がする。
普段なら怖くなるかもしれないが、この時、私は小説を書きあげたせいでテンションが上がっており、気にもしなかった。
帰り道の半分を歩き終え、街灯のない暗いエリアに入ったころ。
赤い服を着た、白目の全くない瞳の女性が現れたのだ。
「ねぇ、私のこと、みえる?」
「ひぃいいいいい。みえ……ます」
「ベアトリスっていうの……よく知ってるでしょう」
先ほど小説のラスト『ざまぁ』シーンで、首を刎ねられた悪役令嬢だった。
「ほらっ、首もこの通り」
ベアトリスは、チョンパされた首を両手で持ち上げる。
「白いドレスも、血で赤く染まっちゃった」
片手に自身の頭部を持ち、別の片手でスカートの端をつまんで貴族の礼をされた。
「た、たすけて」
「いいわ。ただし、物語を削除してくれるかしら。今すぐ」
「そ、そんな。私の力作を」
「命が惜しくないの」
「け、消します。いますぐ」
「こうしてる間にも、PV10万超え、1万ポイント超え、ブックマークも千を超えたわ。はやく消しなさい」
「くぅぅぅうううう、1時間と経たないうちに、過去最高記録を超えているのに」
「消しなさい」
「……はい」
私は、しぶしぶ、スマートホンを操作し、投稿作品を削除したのだった。
「よろしい……ああ、私が消えていく」
暗闇に浮き出た、悪役令嬢ベアトリスの姿が徐々に薄れていった。
「た、助かったのね…」
そうして、私は、トボトボと歩いて自宅にたどり着いたのだった。
「最高傑作だったのになぁ」
そう、呟いて、しっかりと家の戸締りをした。
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ここは『リンコフ研究所』
「リンコフ所長、何していたんですか?」
「あぁ、『情報思念集合体』の、チョットした実験だよ。底辺作者多数の妬み嫉みをエネルギーにして、『ざまぁ』で死んだ悪役令嬢を具現化してみたんだ」
「へぇ結果は?」
「大成功。なんだけど、悪役令嬢が脅迫しに行って、作者に小説削除させちゃってねぇ……」
「元々のエネルギーが、底辺作者の妬み嫉みですからねぇ。削除要求は仕方ないです」
「面白い小説だから、読み返したかったのに残念だよ」
「削除の原因作ったのは、貴方ですけどね」
「そうか?人の悪意の集合体と思うのだが?」
(おしまい)
最高傑作を削除させられるという恐怖……
怖いですね。恐ろしいですね。ホラーですね。
秘密結社リンコフ研究所は、今日も頓珍漢な発明品を作り続けています。
…そういえば再掲載していないですね。凛古風時代の作品。
調子に乗って、続編「読者さん、逃げてぇええええええ ~悪役令嬢ベアトリス其の2」を掲載しましたので、よかったら読んでください。