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3.君を将来の神候補にしたい

「自殺したから、あの世に行けない?」

「そう。あの扉が、あの世への入口なのさ」


(やっぱり、そうなのね)


 アンジェリカは、あの世に関する物語を読んだことがあった。

 川や森、トンネルなど、あの世への入口の表現は数多く見てきた。

 その中の1つに、空にある扉も確かにあった。


「普通に死んでくれていたら、君の足元にもあの扉に通じる雲の階段がちゃんとできて、『ようこそあの世へパーティー』が君のために開けたのに」

「……何なの、そのふざけた名前のパーティーは」

「君は本当に冗談が通じないよね。生真面目で、頑固で融通がきかない。そこが、僕にとっては魅力的だったわけだけど」

「魅力……」


(そんなことを他人から言われたのは、一体何年振りかしら……)


 アンジェリカは遠い過去に思いを馳せた。

 

「そ、僕はね、君を将来の神候補にしたいと思っていたんだ」

「神候補? それって、どういうことですの?」

「神は、何もずっと存在するわけではないんだよ」

「そうなの?」

「どんな存在でも始まりがあれば終わりもある。その理は、神も一緒さ。僕もいずれ神ではなくなり、新しい神が生まれる。神は、相応しいと思われる魂が候補として選出され、その中から決めることになっているんだ」

「知らなかった……」


 神とは、絶対的な唯一の存在であると、当たり前のようにアンジェリカは子供の頃から教わっていたから。


「その、次の神候補の中にね、君がいたんだよ」

「そんなこと、急に言われましても……」


 アンジェリカにとって、神は遠い空の上にいる存在だった。

 もちろん、自分が神になるかもしれないなんてこと、一度も考えたことすらなかったアンジェリカは、戸惑いを隠しきれない。


「だから僕たちは決めていたんだ。君がこちらの世界に来たら、神になるための修行を積んでもらおうと。それなのに君は……本当に、とんでもないことをしてくれたね」


 神と名乗る男……自称神は、大きなため息を吐いた。

 その息がアンジェリカの頬にかかった。

 他の男……特に父である公爵にそうされた時は気分が最悪に悪くなったのに、自称神の息は、春に吹く風の匂いのようだとアンジェリカは思った。


「本来だったら、君は自殺してからこの場所に来ることもできず、現世を悪霊として彷徨ってもらうしかなかったわけだけど……」


 そう言うと、自称神が急にアンジェリカの髪に手を伸ばそうとしてきた。

 アンジェリカは、咄嗟に後ろに下がった。

 髪の手は、ギリギリ私には届かなかった。

 アンジェリカはホッとした。

 自称神の手は、そのまま今度は自分の白銀の髪をポリポリとかき始めた。

 そんな仕草すら、美しいとアンジェリカは思った。


「他のやつは、さすがに君を諦めるべきだと言ったんだ。自殺をした人間は神にふさわしくはないからと」


(この自称神以外に、神と呼ばれる存在がいるのかしら……?)


「でもね、僕は……君をどうしても諦められなくてね」

「はあ……」

「だから、裏技を使うことにしたんだ」

「うら……わざ……」

「そう、裏技。滅多に使ってはいけない究極の神力さ」


 自称神はそう言うと、どこから取り出したのか砂時計をアンジェリカに見せた。

 砂はまるで、夜空に輝く星のようにキラキラと輝いていた。


「僕は、確かに君が言う通り、役立たずな時もあるかもしれない。……いや、違うな。むしろ、基本的に僕は、役立たずでいなければいけないんだ。何故なら、僕が持たされている神の力が、どれだけの影響力を持つかは自覚をしているから。だから……使い所はちゃんと分かっているつもりだ」

「力の、使い所……?」


 無意識に、アンジェリカは自分の手のひらを見つめていた。

 力と聞いて、真っ先にそうしないといけない気がしたのだ。

 

「そのうちのまず1つを、君にあげよう。僕がこの砂時計を回せば、君の人生は遡ることができる」

「そ、それって……」


 アンジェリカの王妃教育が始まる前は、ほんの少しだが趣味の小説を読む時間があった。

 その小説の中でよく使われていたのが「死に戻り」「魂還り」と呼ばれる、死者が過去へ戻る現象。

 アンジェリカも、「死にたい」と思った時は何度も読み返しては、現実逃避してきた。

 でもそれは、物理学的には絶対に不可能だからこそだ。

 ところが、それが可能なのだと、自称神はアンジェリカに言い放ったのだ。


「随分と、疑っているみたいだね」

「…………だって、無理だもの」

「何故?」

「本には……時間を巻き戻すのは無理だと書いてあったわ」


 子供の頃に何度か、アンジェリカは時間が巻き戻ればいいのにと願ったことがあった。

 その度に歴史書や科学書など、思いつく限りの本を読み、方法がないかをアンジェリカは探し求めた。けれど、何も見つからなかった。


「君は、本に書いてあることが全て正しいと思っているの?」

「少なくとも、馬鹿達のうるさい噂話よりは、正しいと思っているわ」

「なるほど……。うん。でもそれはね、君たちの世界に僕たちが与えている条件の結果だから」

「与えている条件……ですって?」

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