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輝く世界を旅して  作者: 藍川秋馬
王都までの道のり
4/13

最初の街へ


 金属音が響く。激しくぶつかり合うその音と肉を切る音、悲鳴と絶叫が響くその街は月明かりだけが存在する時間帯で返り血を浴びたその男の赤い目が怪しく光る。


「弱いな、弱すぎる。どっか強いやつはいねぇのか」


 風を斬る音が響く。肩に担ぐように持たれたそれは人の背を軽く超えたもの。そんなものを軽々と振り回すこの男はこの街ではかなり有名で夜道を歩いていると突如襲われる、なんてことはないのだが声をかけられ戦う人間であればデスマッチを行うらしい。


 恐ろしい。それにその男が持つあの武器はまるで意思を持っているかのように男の言葉に答えるが如くただの武器とは思えない動きをする。


 恐ろしい、非常に恐ろしい。





 そんな噂を聞いた。昼間はそんな雰囲気ないんだけどやっぱり夜は違うのかと肩に乗せた赤い鳥を撫でながらつい昨日到着した街を散策する。


 治安があまり良くないとは聞いていたが確かにいいとも言えないし悪いとも言えない。ただ道を一本外れたら別の話になってしまうかもしれないがひとまず靴と服をどこかで買おうと店を探す。


「ま、魔法針!」


 なかなかに味のある店の前に並べられたひと昔前の魔法道具。魔法針というのは名前の通り針である。


「おやおや若い子がこんな古い魔法道具を知っているとはねぇ」


 腰の曲がった優しそうな老婆が奥から顔を出すとどことなく嬉しそうに針の入った箱を撫でる。


「よかったら買っていくかい?魔法糸の作り方とかは?」

「魔水を使うって聞いたことはあるんだけど魔水の採取方法とか知らなくて」

「そうかいそうかい。ならこれに気づいてくれたお礼でこれをあげよう」


 一冊の薄い魔法書。魔法書と魔導書は根本的なところが違う。言ってみれば魔法書はレシピで魔導書はそのレシピを一つにまとめたものである。

 

 魔導書の後表紙がその魔法書を吸収。新たなページにその魔法書が組み込まれ魔法糸の作り方や道具の手入れ方法などがびっしりと書き込まれていた。ありがたいことに糸がどこで採取できるか、代用物のものまで事細かく書かれている。


「じゃあおばあちゃん、この針ください」

「大切に使っておくれよ。それとこれも持って行きなさい」


 大きめの水晶玉。魔力レベルを測定すれば一般向けの魔法道具ではなく錬金とかに使われる道具の一種かと予想ができる。


「これは?」

「魔水生成水晶さ。水をこの中に吸収させて魔力を流し込めば魔水が出来上がる。薬草なんかあれば薬もできるが今の時代は詠唱魔法が発達していてあまり使われないのさ」

「へぇこんなものもらってもいいの?」


 まるで魔女のように笑う老婆は老い先短い老婆が持っていても仕方がないだろうと明るく笑う。


「老い先短い、ねぇ。おばあちゃん他に魔法道具ある?」

「他かい?そうだねぇ」


 店内見せてねと足取り軽く中に入ると棚一面に置かれた大小様々な瓶。その横の棚には真っ白な綺麗な糸がずらりと並べられてそれに関する専門店なのではないかと思ってしまうほどである。


「お店にあるのってこれ以外に何かある?」

「他にあるのは・・・そうだねぇ。今じゃあんまりいい顔はされないけど呪い人形を知ってるかい」

「呪縛とはまた違う呪い?」

「あれはたちの悪い独り善がりさ。これの呪いは物体が望んで得た呪いさ」


 まだ理解できるほどの知識がない。けどその呪い人形は可愛いから


「壁にあるやつ全部とあの呪い人形買いたいんだけどこれで足りる?」


 金色コインを三枚。それを見るなり大口開けて笑う。


「若いのがこんなにも持っているとはね!一枚あったらお釣りがくるさ!」

「なるほど。でもこれで支払わせて おかげで僕の知識がさっきよりも豊富になったからさ」


 授業料も含めた料金だよとそれを押し付け魔導書を開くとそのページに吸収という魔法文字が描かれその部屋にあるもの全てを吸収した。呪い人形だけは手に持っていこうと決めていい買い物ができたから満足である。


「ありがとうおばあちゃん。この街、なんか物騒な噂聞いたから夜道気をつけてね」

「こんな大金をもらったのなら別の街にでも引っ越そうかねぇ。またどこかで会えたときは声をかけておくれ」


 

 街の宿舎に戻って買ったものを確認。三メートルほどのサイズになった鳥が寒くないようにと包み込んでくれる。


「抱卵されてる・・・?まぁいいや」


 魔法針は手芸用。たまに武器としてあるにはあるが殺傷能力や付与された能力が全く違う。


 それはともかくさっきから部屋のテーブルに置いている呪い人形がまるで読み聞かせを待つ子供のように膝の上に座っている。

 

 勝手に動いているなぁとは思った。思ったけどここまではっきり動くとは思わなかった。ただその見た目が少し可哀想でどうにかならないだろうかと考える。


「魔導人形・・・?」


 呪い人形というのが正式名ではなく魔導人形というのが正式名だそう。その成り立ち、生まれについて魔導書に書き留められておりまだ魔法が発達する前に手間暇かけて作られたもの。


「人の手伝いをするために人間に近い姿をしている、と・・・服とか、作ってあげれたらいいんだけど」


 針は持っているが布はない。しかも裁縫もしたことがない。スキルがあれば簡単に作れるのだけれど生憎持っているのは魔石加工の初期の初期と鑑定眼と呼ばれる魔眼の一種しかない。


「魔導人形の作り方と手入れ方法が書かれてるけど・・・」


 使う魔石によって能力が異なるらしい。例としてあげれば両の瞳が火の魔石である場合火の属性魔法を使えたりと。


「目、ねぇ。この子動いているし目の入れ替えって抵抗があるんだけどせめて今日は体を拭いたり」


 お湯をもらってタオルを浸してボロボロな布切れ状態の服を脱がせる。木製の人形には性別が判断できるようなところまでは作られていない。


 白く作られたその体をタオルで優しく拭く。


「目を魔石に変えることができるんだったら結構持ってるしいいかもしれないね。抉り出す感じで嫌なんだけど」


 服はもう使えないから簡単に質のいい布を縫ったものを羽織らせる。綺麗になった魔導人形は片腕で抱けるほどの大きさでとても可愛らしい。


「愛嬌ある姿だから人気者になりそうだねぇ。ただ手足の動きが少しおかしい・・・」


 どこかで直せたらいいんだけど王都に行けば直してもらえるだろうからもう少し待ってねと頭を撫でる。新しい友達は魔導人形で決まりだとテーブルに座らせてベッドで眠る。


 朝起きたら添い寝をするように魔導人形がベッドの中にいたときは少し驚いてしまった。



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