呪縛
人里離れた場所にある可愛らしい家。そこにやってきたガレスは一見ハードカバーの分厚い本を持ってきたのかと思ったがそれが魔導書であることに間違いない。魔導書の表紙には何も描かれておらず背表紙にも何も書かれていない。これは魔導書の所有者ができた際に所有者の名前が刻まれ所有者が閲覧してもいいと許可した相手にしか開くことができない特別な物である。
登録方法は至って簡単。表紙に所有者の血液を付着させたらいいのだ。一滴、表紙に落とせばまるで血液をインクにしたかのように刻まれるソアレ・レーヴェンという文字。所有者に閲覧許可がされていないものにその文字を認識されることはない。そういう術がかかっているらしい。
「登録が完了したようだな」
「うん、できた。ページ数は徐々に増えて行くんだよね」
所有者がいろんなものに触れていけばページ数は増える。そのページ数というのは目で見て理解したものを書き記すものだったり文字としてその物体を収納したりと色々と使用することができる便利なもの。質量は関係なく使えるのだがこれには注意点が発生する。
まず液体を直接収納できない。瓶に詰めた分だけ収納ができるので水や回復薬などといった液体を収納する場合は瓶を用意しよう。
次に生物の収納はできない。魔導書で管理される場合劣化しないようにその物体の時間が止まるのだとか。だが魔導書を育てれば育てるほど魔導書には限界がないのでページ数は増える一方である。増えても見た目が変わったりはしない。
「収納する場合はあれ、何か入ってる」
「所持者が決まってない場合好きにものが入れられるからな。必要そうなものを入れておいたぞ」
「さすがガレスおじさん!」
宝石加工用の特殊魔道具が入ってるけどスキルがないんだよな〜。欲しいな〜。
「移動用の道具も入ってる。あ、そうそう、もう魔導書があるからいいんだけどもしも大きなものだったり何かを移動させる時に便利な魔法とかある?」
「まぁまずは泥人形だろう。一度作ったら何度でも手伝ってくれるしな。実際工事とかでは重宝されているが」
白い表紙のガレスの魔導書。そこから文字が飛び出してきてソアレの魔導書の一ページに文字が刻まれる。
「ゴーレムの作り方!」
「頑丈にするには色々と試行錯誤が必要だが一度作れば本当に便利だぞ。今から作ってみるか?」
泥があれば作れるぞとすでに飛び出したソアレを追いかける。
それではゴーレムを作ります。今日のゴーレムは至って簡単、土だけで作る通常ゴーレムです。
「まず心臓になる魔水晶を選んで」
「質によって行動できる時間が伸びるからな」
「じゃあちょっと手に入れてしまった高品質の風の魔水晶を」
ポイッとしたら魔力を注ぎます。あら不思議、目の前に巨大なゴーレムが出現しました。
「・・・・ソアレ、限度を知っているか?しかもかなりいいやつ入れなかったか?」
「偶然見つけて。これサイズとか変えられるのかな」
「魔力を流しすぎなんだろうな」
十メートルを超えるゴーレム。やりすぎたかぁと思っていたら纏う土の量を減らしてガレスおじさんと同じくらいの大きさになる。まぁガレスおじさん、他の人よりも体格がいいから多分これでも大きい部類なんだろうなぁと思ったり思わなかったり。
「うん、そのくらいの方が動きやすいかもしれない。採掘のお手伝いよろしくね」
「さすがソアレだな。魔力の流し方がうまいからこそ大きいやつができたんだろう。これを買ってきてよかった」
これといって出してきたのは一枚の布。質を図ると一般向けの魔道具ではないらしいそれ。
「魔水晶は加工前のことを言うんだが形が整えられたものを魔石と言う。まぁ今では原石なんて若いやつは見たことがないかもしれんがな」
「魔石を作るための道具ってこと?スキル持ってないけど」
「初期加工のスキルは俺が話を通して許可してもらった。単純な形にしかできないからあれだがまぁ使ってみてくれ」
研磨した際に出た粉も採っておいた方がいいと瓶も大量にもらった。魔導書があれば便利だとありがたみを感じつつ早速今日は無属性の魔水晶の採掘へと向かおう、と思ったのだが研磨布をもらったのであればおじさんがいる時の方がいいよねと自分を制する。
「持って帰ってもらおうと思ってる魔水晶が木箱六個分あるんだけど一つほどもらっていい?」
「研磨するのか?研磨したものももらって行きたいんだが」
「失敗する前提なんだけど」
大口開けて豪快に笑うおじさん。失敗は何度してもいいといつものようにその大きな手で首が取れるのではないかと思うほどに撫で回される。
まずは大きすぎる塊をいくつかに切り分ける。ビー玉程度でもレベルは変わらないので問題ない。
「これに、魔力を流して・・・・」
テーブルの上に一枚紙を敷いて粉をこの上に落とす。後から瓶に詰めるためだ。かなりの数、失敗した。一瞬にして石が粉と化して無駄にしてしまったが採取したのは自分だと言い聞かせ何度目かわからない加工に入る。塊を磨いて磨いて魔力も加減しながらと慎重にやれば手の中に残ったのはまんまるな魔石。
「お、できたじゃないか」
「やっとできた・・・けど感覚は掴んだから多分次もできる!!」
魔石を大小様々作り上げ魔力を消費させた。消費しすぎると目眩や倦怠感が出るので要注意である。
「疲れた・・・・」
「おう、お疲れさん。この代金も置いて行くぞ」
「あ、ガレスおじさん、魔石、何個かもらってもいい?」
加工したのはお前だし好きなのを持っているといいと三つほどもらう。粉も無事に瓶に詰めて作業は終わり。
「そういえば合成できる環境が欲しいといったよな?場所は遠いが用意できる場所がある。いつか来てみるか?」
「いく!王都の近くだったり?」
「まぁそうだな。転移紋を認証すれば一発なんだがソアレは一度も来たことがないから弾かれるんだ」
つまり王都にいかなければならないと言うことかと考える。
「移動用のモンスターでも使役できればいいんだがな」
「使役は聞こえが悪いよね。こう、友達とかそう言う言い方がいいな」
「はっはっは!王都にきたらテイマーという役職があるぞ!」
モンスターと心を通わせることができる役職だそうでなろうと思ってなれるものではないらしい。なりたいなぁとは思う、可愛いモンスターもたくさんいるわけだしいつかは友達欲しい。
「それか、そうだな・・・あまりこれは使って欲しくはないが呪縛された生き物を解き放つために魔石を心臓に入れ替えるとか」
「やり方は知っているけどやりたくはないかな」
「まぁ呪縛にかかったやつがそうそう見つかることはないしな」
そんな他愛のないことを話しながら明日は無属性の魔水晶を探しに行くぞと心に決めるのだった。