結局スーパーが最強ってわけよ
学校再開二日目ではあるが、既に特に変哲もない、普段通りの授業の連続であった。
変わったことを強いて言うなら、先生の雑談兼夏休みレポートで各授業一五分ほど、潰れたことくらいか。
御影が午後の睡魔と闘いながら、意識を無理やり保っていると、気が付けばこの日の授業が終了していた。
担任の当たり障りのない終礼の言葉を聞き流していると、日直の「起立」という挨拶が教室に響き渡り、放課後へと突入していく。
御影と雫は二人で街にくり出していた。
というのも、休み時間などを通して、御影が雫に、精肉に関して色々と学びたい旨を伝えたところ
「うちの店でも、いいけど、せっかくなら、ちょっと出かけよ?」
と、申し入れがあったので、二人は学校最寄りのバスに乗り込み、パンパンの車内で揺られてる。
ちなみに、御影と雫が二人並んで教室から出て言った瞬間に、教室内はにわかにざわついたことを二人は知らない。
翌日に、御影が男子生徒たちから尋問され、裁判にかけられることになるのだが、それはまた別のお話。
二人がバスで揺れること三〇分。
目的地の周辺に到着したので、雫は御影の手を引き、バスを下車する。
檜森御影一七歳。人生で初めて、女子と手をつないだ瞬間である。
いや、厳密にいえば、小学二年生のころの集団下校のときに、強制的に並んでいた女子と手を綱がされて以来か。
突然の、ヒヤリとした感触と相対的に、御影の手の体温は急上昇していった。
御影としても、急に体温が上がったという事実を気恥しく思いながら、しかし、その手を振りほどくことを本能が拒否し、されるがまま降ろされる。
「あ、ごめん、ね?」
二人を下したバスが走り去る瞬間に、雫が御影から手を離した。
御影としては、このまま繋いでいたい心、半分と気恥ずかしさ半分に、更に別に付き合っているわけではないという事実が加味されて、結局手が離れてほっとしていた。
二人が下りたのは、大型ショッピングモールのすぐ近くのバス停だ。
目の前には三階に屋上駐車場が付いた巨大ショッピングモールが。
その広さはおよそ七万㎡。東京ドーム二つ分近くある、県内最大の商業施設だ。
テナントとして入っている店舗数も二五〇店舗近くあり、映画、カラオケ、ゲームセンター、ボーリングと娯楽施設も網羅している。
五千台ほど駐車場はあるが、土日祝日だと、常に満車になるほどの大人気施設。
正に他に行くとこがないからとりあえず行ってみるという輩が大量に発生する、田舎特有のショッピングモールなのだ。
「僕、だいぶ久しぶりにきたよ。倉下さんはよく来るの?」
「うん。化粧品とか、お洋服は、全部ここで、買ってる、から」
「そうなんだ。気に入ってるお店があるんだ?」
「ううん。ここには、全部あるから、楽だなって」
雫の少々ガサツな一面が明らかになった瞬間であった。
小刻みに会話のキャッチボールを繰り広げながら、二人は施設内へと入っていく。
もちろん、訪れた理由は雫の化粧品や洋服を買うためではない。
辿り着いた先は、施設内のスーパー。
施設内一階における約四分の一の面積を有しており、県下最大規模となっている。
野菜、魚、肉、酒、そのほか諸々。大概のものが入手でき、ラインナップも豊富なので、買い損ねるということが起きないのが、巨大スーパーの一番のメリットだ。
「あんまり、スーパーで買い物とかしないから、精肉コーナーとか本当に久々だよ!」
もちろん、御影と雫の目的は、その中にある広大な精肉コーナーである。
御影たちの目の前には、大量の発泡スチロールのパックに入ったお肉が、並べられている。
「色んな種類のお肉があって、値段のこととか、良いもの悪いものを見分けるには、ここが一番かなって、思った」
むふーっと雫も、どこか満足そうに、陳列棚に並んでいるお肉たちを見つめている。
どうやら、精肉店の娘の血が騒いでいるみたいだ。
「じゃあ、色々教えてください先生!」
「うん。任され、た?」
ここにお肉のお勉強会の開幕である。