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肉屋の娘の倉下さん  作者: 田中
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お金はうそをつかない

「まず、檜森くんに、私たちの仕事について、軽く、説明するね? そもそも、精肉店って、何をしているのか知ってる?」

 単純すぎる質問な故に、御影は逆に返答に困る。

「えっと、下の階みたく、お肉を売っているんだよね?」

「そうだね。でも、それだけじゃ、食べては、行けないんだよ? お店みたいな、小売りだけでやっていけるのは、すごく売れてるスーパーくらい、かな?」

 実際は、スーパーですら、現在はネット販売を行ったりするなど、店頭販売だけでは生きていけない時代である。

「へぇ~。そうなんだね。あ、それで他にも焼き肉屋みたいな飲食店にお肉を売って、成り立たせているんだね」

「うん。その通り。あと、実は結構、大きいお客さんは学校とか病院、なの。で、さっきの社長、というかおじいちゃんの話になるんだけど」

「あ、刑務所に入所したっていう……」

 御影の脳内では、勝手に顔も知らぬ雫の祖父は織の中にぶちこまれていることになっている。

「入所は、してない、よ? うちは、昔から、県の刑務所の食事を担当している、みたいで、たぶん、その打ち合わせに、行ったんだと思う」

「あ、なるほど! それで刑務所の中に入っていったんだね!」

「誤解、解けた?」

 コテンと首を傾げる雫。

「もちろん! でも、それにしてもすごいね! 刑務所の食事を任されるなんて」

 御影からしたら未知の世界だ。

 国の施設の食事を任されるとは、さぞかし国や県から信頼を得ているのではないか。

「うん、なんか、おじいちゃんが、昔お世話になった? 繋がりが、あるんだって。詳しくは、おじいちゃんも源さんも、全く、教えてくれないんだけど。なんでなんだろうね?」

「うん、急にきな臭くなったね」

 この件に関して、あまり深く追及するのはやめようと思った御影であった。

「あとは、うちは違うけど、ふるさと納税とかやっているお店は、結構お金が動くらしいの」

 雫は人差し指と親指で丸を作る。

 御影はチャリーンという幻聴が聞こえた気がした。

「もちろん、小売りもしっかり力を入れているんだよ? これは、うちのチラシなんだけど――」

 と、雫がいくつかのカラーコピーされたチラシを、机の上に広げようとしたところで、コンコンと、ノック音の後にゆっくりとドアが開かれた

「雫さん失礼します。お茶とお菓子持ってきました」

 やってきたのは、事務室で電話対応をしていた内の女性事務員の一人。

 その手のお盆には、緑茶の注がれたグラスと、どら焼きが乗っていた。

「あ、すいません。わざわざお菓子までもらって。ありがとうございます」

「いえいえ、せっかく雫さんが男の子をお連れしてきたんですもの! 遠慮なく召し上がってください」

 来客対応は慣れているのか、テキパキと雫と御影の前にお茶とお菓子を並べる。

 そして、並べ終えると、女性事務員は雫の耳元に顔を寄せて、小声で

「それにしても、雫さん。やっぱりこういう可愛い系の男の子がタイプだったんですね?」

 御影の耳には届かない音量での耳打ち。

「檜森くんはお客さんだよ…………。でも、確かに、間違ってはいない、かも?」

 雫は自分のことなのに、あまり把握していないのか、首を傾げる。

 すると、女性事務員は微笑ましいものを眺めるような笑みを浮かべつつ、今度は御影にも聞こえる声量で口を開いた。

「ふふ、雫さんにはあまりガツガツするタイプは似合いませんよ? なんたって、社長の孫なだけあって、なんだかんだ我が強いんですもの」

(倉下さんって我が強いんだ……。確かに、ちょっと強引なところはあるかも)

 御影の中にあった倉下雫のイメージは、この一日でだいぶ更新されたので、一人静かにうなずいている。

(ていうか、なんの話をしていたんだろ?)

「では、失礼いたします。食べ終わったグラスと食器はそのまま置いておいてください」

 女性事務員は再び仕事モードに入ったのか、背筋を真っすぐに伸ばし、キレのある動きで一礼して退室していった。

「じゃあ、せっかくだし、食べようか?」

「うん、いただきます」

 二人でどら焼きにぱくりと食いつく。

 ちなみに出されたどら焼きは超高級和菓子専門店のものであり、御影はそのあまりのおいしさに「お金って嘘つかないんだ」と、少し大人の階段を登るのであった。



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