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肉屋の娘の倉下さん  作者: 田中
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肉屋ってほぼほぼヤクザみたいなもんでしょ

「お~。でっかい」

 御影の口からは小学生以下の感想が、感嘆のため息とともに吐き出される。

 見上げると、赤く塗られたペンキで『丸喜精肉店』と書かれた看板が、デカデカ主張している。

 御影としては看板も大きいと感じたが、単純にお店の巨大さにも驚いている。

 御影の勝手な精肉店のイメージとしてあったのは、『少しぼろぼろになった木造三人暮らし一軒家の一階』、というような古臭いものだったのだが、『丸喜精肉店』は規模が違う。

 まず、小売りとしての販売店の空間だけで、田舎のコンビニくらいの広さを誇っている。

 もちろん、敷地はそれだけではない。

作業場がお店の後ろにはついており、これまた巨大な冷蔵庫冷凍庫も作業場から少し離れた位置に置かれている。

 また駐車場も田舎のコンビニくらい広い。車も一五台は駐車できそうだ。

 夕方ということもあるのか、平日でありながらも、駐車場の半分は埋まっている。

 お店の中では、常連と思わしき五〇代ほどの婦人たちと、強面でひげ面の三〇代ほどの職人が談笑をしている。

「じゃあ、入ろっか?」

「お、お邪魔しまーす……」

 二人は表の販売店の入り口からではなく、作業場の入り口でもある裏口から、店内に足を踏み入れる。

 雫は実家のお店なので淀みない足取りで進み、一方の御影は、恐る恐る雫の後をついていく。

 作業場には三つの長机の作業台があり、その二つの台の横には直径一メートルほどの円形の刃物が付いたスライサーが設置されている。

 そのスライサー付きの作業台の一つに、白髪が似合う初老の男性が、巨大な肉の塊に刃物を滑らせている。

白髪の男性が店内に入ってきた二人に気づき、顔を上げた。

「お嬢! お帰りなさい! 何ですかい、後ろの坊主は? ついに彼氏ができたんですかい?」

「ただいま、源さん。この人は、檜森くん。お客さん、だよ?」

「わけーのに客とは珍しいね、坊主! よーきてくださいました! 本日はどんなご用件で?」

 源さんと呼ばれた男は包丁から手を放し、洗面台で手を洗い出しながら、御影のほうに視線を向ける。

 作業着の袖から伸びている腕は太く、触るまでもなく凄まじい筋肉量だとわかる。

「源さん。檜森くんは私のお客さん、なんだから、とっちゃダメ、だよ?」

「おっと、こいつは失礼! どんな話かわかんねーですが、店内で何か案内します?」

「ううん。できれば部屋で、説明したい。応接室か社長室、空いてる?」

「どっちも空いてますよ。社長はさっき刑務所に入ったんで、戻ってくんのは多分だいぶおそいですね」

「さっき刑務所に入った⁉」

 御影は源さんの不安な言葉に、思わず突っ込みを入れてしまう。

(えっ⁉ 何、さっき逮捕されたの? いや、刑務所だから、収監? 確かに、この人も表の人もちょっと、ヤクザっぽい見た目してるし――)

 クラスで人気のあの娘の実家が危ない家だったとは。

 と、混乱する御影。

 しかし、取り乱しているのは御影だけ。残りの二人は落ち着いている。

「はっはっは! そうだよな坊主! 突然ムショとか言ったら、そんな反応になるよな? お嬢、あとで誤解解いといてくださいよ!」

「うん。任せて。しっかり説明する、から」

 雫は混乱している御影の背後に回り、その肩を押しながら作業場の奥へと進んでいく。

 奥には自動ドアがあり、そこが開くと更に、先ほどと同じような作業場が広がっており、すぐ隣にはコンクリートで出来た階段がある。

「上がって?」

 御影は促されるまま、二階へと上がる。

 二階は二〇畳ほどの事務室となっていた。二人の事務員と思わしき女性が、電話対応をしている。

「あっち」

 雫が指差した方向には、応接室と立札が貼られている部屋の扉があった。

 御影は電話対応をしている事務員の女性たちに、忙しそうなので挨拶するのも邪魔かと気を使い、会釈だけをしながら、ゆっくりと応接室へと入っていく。

 応接室にはフカフカそうな一人用のソファーの形の椅子が四脚と、ガラスでできた机が一つ配置されていた。

 壁には様々な地域のイベントのポスターや、食肉に関しての豆知識がイラストで解説されているポスターなどが貼られており、少し賑やかな印象を与える。

 御影は雫から座るように促され、腰を下ろすが、その際衝撃が走る。

(ふっかふか⁉ ナニコレスゴイ)

 そのあまりの心地よさに、意識が飛びそうになる。

 これぞ高級ソファーのなせる業。

お金は正義なのである。

「ちょっと、待っててね」

 雫は御影を残してパタパタと応接室から退室したかと思うと、一分も立たないうちに複数の書類を手にして戻ってきた。

「じゃあ、始めよっか」

 ここにて檜森御影人生初めての商談の開始である。


実際、指何本か落としている職人はガチで多い。


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