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捨丸と姫様  作者: 羅都鬼
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第2話 博多の豪邸にて

更新、遅くなりすみません。段々面白くなります。よろしく。

 一行は神屋宗湛の屋敷へとやって来た。

 かなり大きな建物である。捨丸は堺の町で見慣れているとはいえ、大きいな、と思った。

 「あ、あ……」

 隣では虎殿、い、いや『あやめ』殿が目を見開き、びっくりしておる。

 もちろん、彼女の供の武士も同じく驚愕の態である。

 まあ、九州の片田舎から出てきてるからこんな大きな建物は見たことがなかったのであろう。

 散吉は海千山千の男なれば、なんの感慨も示しておらず、なんだか、ボウとした顔をしておる。

 その顔こそ散吉の武器のひとつであり、散々の訓練の結果、手に入れたものである。

 伊賀者にとって、請け負う仕事のほとんどは隠密、探索であり、目立つことは禁忌である。  一度顔を見られても、次の瞬間、忘れられる事こそ必要である。

 捨丸も似たようなボーっとした顔をしておった。

 こちらは文字通り何も考えておらんかったのであるが……

 入り口は見たところ、二つあり、一つは立派な門構えのもの。

もう一つは間口は広いが、簡素な作りで、人や物がさかんに出入りしている。

 どうやら、自宅と商店が一緒になっており、その為の二つの入り口のようである。

 「あの……捨丸さま。おさきにどうぞ」

 「いやいや。我ら、仕事むきでござるで、あちらの出入り口から入り申す」

 彼女を優先したかった捨丸、思わずそんなことを言ってしまっていた。

 「あら、そうですの?ではお先に」

 育ちよく、素直なおあやめは一礼すると、正門に立ち、案内を請う。

 「たのもう!たのもう!これは矢部、五条統康が娘、お虎さまでござる。お呼びにお答えして、まかりこしましてござる」

 と、お供の武士が大きな声で叫ぶ。

 「はーい」

 どたどたと足音がして大きな門が開いた。

 そこには二十台後半くらいの小男が立っておった。

 「聞いとります、どうぞ!」

 手をおいでおいでして招く。その態度、明らかに自分と同格くらいという扱いである。

 我らに一礼したふたり。門をくぐりぬけ、中に消えた。

 「捨丸どの、我ら、非公式なれど、豊臣のものでござる。あそこから入るはまずい」

 「あ、そうか。じゃ、ここから入るか」

「たのもう!たのもう!」

 再び、足音がして、あの男が顔を出す。

 そして、捨丸とその小者を見ると、嫌そうな顔をして、言った。

 「雇われたかったら、店へ廻れ!ここはお前らがくるとこじゃない!」 

 そう言い放つと、引っ込もうとした。

 「待て待て、我らは豊臣のものである!これをみよ!捨丸様、あれをはよう見せてくだされ」

 「おお、これか!」

 捨丸はあわてて懐から、秀長よりもらった書付を広げて見せる。

 「こ、これは本物で?」

 男は書付を受け取ろうとする。

 「阿呆か!これに触るな!さっさと当主を呼んで来い!」

 「へ、へい!」

 さっきの勢いはどこへやら、やたらと卑屈になって、男は引っ込んだ。

 しばらくの間……

 再び今度は大人数の足音がして、門が開けられた。

 そこには恰幅のいい中年の男がひとり、後ろには何人もの男達が付いてきておる。

 「これは、これは。遠路はるばる、ようこそ御出でくださいました。神屋宗湛でございます。さ、さ、中へ、どうぞどうぞ」

 「うん、失礼いたす」

 捨丸と散吉はズイと中に入っていった。

 両側に部屋の並ぶ長い廊下を通ると、広い庭に面した座敷に通された。

 上座に案内され、座る捨丸。正面に宗湛。入り口付近に散吉がそっとすわり、たちまち存在感がなくなる。

 座敷もそこそこ広い。十二畳ぐらいか……

 ごく普通の部屋と見えたが、捨丸、目ざとくあるものを見つけた。

 庭に面した障子に、一枚、なんと、ぎやまん(ガラス)がはめ込んである。

 初めて見た!

 噂にきいたことはあったが、見るのは初めて。

 興味津々で、捨丸、宗湛そっちのけで、じろじろ見ておった。

 「は、は、は。ぎゃまん、珍しくございますか?南蛮渡来の珍物にございます」

 「あ、これは……失礼仕った、これを見てくだされ」

 頭をかいた捨丸、懐から、書付を出し、宗湛にわたす。

 「ふーむ、非公式の臨検使でございますか……この様な役目、初めて聞きました。なにはともあれ、あなた様に便宜を図るようにとのご命令、しかとわかりました。何でもお申し付けください」

 「はあ、それがでござるな、ぶっちゃけた話、秀長様から、キリシタン宣教師の悪事と人身売買について調べて来いといわれております。なにか、お心当たりはござらんか?」

 「はて……その様なこと、聞いたこともございませんが」

 気配を消しておった散吉は思う。捨どの、相変わらず、直勝負じゃのう。

 じゃが、これが秀長さまが望まれたことか?あの方のされることはわからん、寝業師であるからのう。

 まあ、当然のごとく神屋宗湛は否定し、話はおわった。

 「まあ、まあ、長旅でお疲れでしょう。ごゆるりとなされませ。あとで歓迎会を催しまする」

 「あ、それなれば、五条の姫様もご一緒にお願いしたい」

 「あ、お知り合いか?よろしいですよ、それでは失礼」

 神屋宗湛は慌しく去って行った。

 「これからどうされます?」

 「ワッ、びっくりした!おったんか!」

 「最初から居るにきまってます。気配を感じてくだされ」

 「い、いや。拙者、戦いにおいて、感は鋭い方じゃが、全然わからなかったぞ、なにかあるであろう、散吉どの」

 「ま、まあ、伊賀の隠遁の術のひとつではござるが……」

 「そうか、そうか。それなれば、噂どおり、土になったり木になったり、屋根の上に飛び上がって隠れたりできるのか、散吉殿は?」

 「は?それは、嘘でござるよ。その様な噂をばら撒き、我らに対する恐怖をあおったり、依頼主に我らの力を誇張するためのものでござるよ。実態は今お見せした気配を消すとか、こっそり忍び込むとか、地味なものでござるよ」

 「なんだ、夢がないのう……聞かねばよかった」

 く、この餓鬼め!無表情で怒る散吉であった。

 捨丸、庭に面した廊下に立ち、障子に埋め込まれたぎやまんに顔を近づけ、室内を透かし見る。

 「おう、見えるぞ、見えるぞ。ぎやまんを通して散吉どのが見えるわ。面白し!」

 「が、餓鬼でござるか!捨丸どのは!」

 隠遁の術、敗れたり、散吉、気配ありありで、怒りくるっておる。

 * * *

 夕になり、宴会がはじまろうとしている。この当時、真っ暗になったら、基本、寝るので、夜の宴会は夕方より始まる。

 宴会場に最初に入ったのは捨丸と散吉。

 本来は小者は参加できないのであるが、捨丸が同僚として扱って居るので、小者でないことがばればれの為、やけくそで散吉も参加した。

 続いておあやめ殿とお付の蒲池平吉。これも彼女の希望で特別参加である。

 「や、やあ」

 「あら、うふふ」

 ふたりは顔を見合わせ、恥ずかしそうに、だが嬉しそうに笑い合う。

 散吉と平吉、無表情に頭を下げ、挨拶しあう。

 席に着いた二組、捨丸が上座、姫たちが下座である。

 その位置に、蒲池は不服そうじゃ。捨丸は無頓着、散吉は気づいたが無視しとった。

 そのため、なぜか気まずい雰囲気が醸し出されておった。

 忙しげに神屋宗湛がはいってきた。

 「お待たせした!ほれ、料理を運び込みなさい」

 命令一過、次々と運び込まれる山海の珍味……

 嬉しそうに見る、捨丸とお虎。無表情に、だが、眼はきょろきょろと見ておる散吉と、平吉。

 「ささ、お食べくだされ」

 宗湛の声を合図に食らい付く主従の四人。

 さすがに一杯飯屋ではない為、うまいうまいと声は上げぬが、夢中で食らい付いておる。  ま、結構上品ではあるが……

 二人とも公家の流れを汲むものたちであるから、礼儀作法はしっかりたたきこまれている。

 それをニコニコ見ておった宗湛、ふと気づいて言った。

 「そういえば、お二人とも、五条でありますな……ご親戚でござるか?」

 「さ、それは?拙者、家の起源を知りもうさんが、公家出身であるは確かです」 

 「ほう、それで、お虎どのの方は大そうなものと聞いたことがございますが?」

 お虎、食べ止めて答える。

 「はい、南北朝の争いのとき、後醍醐天皇様の命で九州に派遣なされました懐良親王様に付き添い、その教育とその守護をいたしました五条頼元が祖でございます」

 これはこれは立派なものである。世が世であるなら、九州で一番えらい。

 だが世は下克上の時代。

 「ほ、ほー」

 で、終わってしまう……

 「なるほど、なるほど。それじゃ、拙者の祖はきっと浪速(なにわ)に残った一族でござろう。それじゃ、お虎どのはひょっとしたら、主筋かもしれん」

 捨丸、お虎に向かって、頭を下げる。

 「まあ、いやですわ、ほ、ほ、ほ。」 

 「わッは、は、は。」

 二人は見つめあい、楽しそうに笑う。

 それを白けて見つめる、散吉と平吉。

 しかし、宗湛は楽しそうに見つめあうふたりを見て、複雑な表情をしている。

 それを敏感に感じ取った散吉、わけがわからず考え込んだ。

 なんだ?あの表情は?あのふたりが好意をもつと、困るのか?さっぱりわからん……

 なにかある。今宵、しらべるとするか。

  

 人物紹介


 神屋宗湛

 博多を拠点として、海外貿易に携わり、当時わが国の代表的輸出品である銀を独占していた。秀吉に協力し、太閤町割、博多や名島の家屋建設、軍用米の集荷など懸命に働いた。宗湛らは、一地域の町人から天下の町人へと上昇したが、一五九八年に秀吉が波乱に満ちた生涯を終え、豊臣政権の幕が下りたとき、宗湛らの天下の豪商としての時代も終わりを告げるのである。


 五条頼元

 後醍醐天皇に仕え、天皇の軍略によって皇子懐良親王を征西将軍に任じ西国に派遣したとき特に頼元に親王の守護と教育を命じた。頼元は懐良親王と行動を共にし、南端の薩摩に上陸し、菊池、阿蘇氏らと共に北進して足利方を駆逐し、大宰府に入城。九州における南朝勢力の隆盛に尽力した。しかし後、懐良親王の後継として良成親王が下向したころから南朝の勢力は衰退していった。

食ってばかりですみません。次回から物語りは激しくうごきます。

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