2日目① 人間関係
気づくと、彩乃はいつもの学校にいた。
目の前に立つ2人のギャル。
「村木さん」
明るい茶髪ロングのギャルは、彩乃の苗字を呼ぶ。彼女は彩乃に近づき、ニヤッと笑った。
「これ……あげる」
彼女から渡されたのはタバコだった。彩乃は彼女の行動が理解できなく、眉を顰める。するとそこへ男性教師が通りかかった。
「あっ、せんせ~っ!」
「ん、どうした?」
「あれ……」
教師の目は、タバコを持つ彩乃に向けられた。
「ヤバいっすよね!」
お団子ギャルも、教師の方へ駆け寄る。教師は彩乃の姿を見るなり驚いた表情を見せていた。
「これ、タイガクってやつじゃないです?」
「……いや、おい村木」
「だる」
彩乃はタバコを投げ捨てた。
教師を無視し、そのまま帰宅する。
翌日、彩乃は生徒指導室に呼ばれた。
全てを話し、彼女らの悪事も色々と暴露をしたが、教師は大事にしたくないと、そのまま口を塞いだ。
――タバコの事は動いたのに、いじめに対する事には動かないんだ
彩乃は男性教師を睨んだ。
◆◆◆
2日目の朝を迎えた。
嫌な夢を見てしまい、起床早々ため息をつく。
恐らく、昨日のような楽しい日中は送れないだろう。
――まずは、潤と合流してから……
この場所で頼れるのは、潤しかいなかった。正直、彼の存在は彩乃にとっては大きく、彼がいなかったら今頃孤独感に苛まれていただろう。
彩乃は顔を洗い、櫛で寝癖を解かした。
部屋から出て、真っ先に向かったのは上の階の潤の部屋だ。
ノックをしても、返事がない。
彩乃はゆっくりと潤の部屋のドアを開ける。
中に入ると、ベッドで寝相を悪くしながら寝ている潤の姿があった。
「……う、うぅん」
潤はゆっくりと目を開ける。
「う、うわぁぁ!?」
「おはよう!」
彼はかなり驚いた。
深いため息をつくと、髪をわしゃわしゃと掻いた。
「もう、マジで勘弁してくれよぉぉ」
「ごめんごめん、起きてると思って!」
「はぁ……」
「おはよう!」
「おはよー……」
潤は下着のままだった。
「ちょっと、服!」
「お前が勝手に入ってきたんだろ」
「良いから!」
潤は服を着ると、2人は部屋を出た。
そのまま食堂に向かう。
「私ね、嫌な夢見たんだ」
「嫌な夢?」
「うん、学校にいるギャルたちの夢」
「仲わりぃの?」
「まぁ、基本的にあいつらはみんなから嫌われてるけど」
「そうなんだ」
「おはよう、彩乃ちゃん」
「2人ともおはようございます」
向かいからやった来たのは、真帆ちゃんと葉月さんだった。彼女らはもう食事を済ませたのだろう。
「おはよう」
「おはよ」
真帆ちゃんは小さな笑顔を浮かべて、彩乃に手を振りながら通り過ぎて行った。
「あいつらって、どういう仲なんだろ」
「ん?」
「ほら、昨日も一緒の部屋にいたって言ってたじゃん。今も一緒にいるし。俺と彩乃だったらまだ分かるけど」
確かに。
歳も性格のタイプも違う。
同じ学校の制服じゃないし、話している所も見たことがない。
「まぁ、仲良くなったんじゃない?」
「信頼し合える仲、とか?」
「え?」
「昨日の坂本や新のように、疑心暗鬼になってしまう奴もいるから、その状況で一緒にいるって言う事は、俺らと同じ、互いに信頼し合える仲なんだと思う」
普通に仲が良いだけなら、部屋で2人きりになるのも怖いだろう。
「あの2人のどちらかが和田を殺して、その情報を互いに共有している、だからもう片方は安心できているのかもしれませんね」
2人はびくっと体を震わせ、咄嗟に背後を見る。彩乃と潤の真ん中に立つように、背後には古田くんが立っていた。
「いつの間に……」
潤は視線を落とす。
「靴は?」
「別に良いかなと」
「……だから足音がしなかったのか」
古田くんはニヤリと笑った。
「これも、ヒントになるのではないでしょうか」
「ヒント……?」
潤は難しい表情を見せる。
「自分の存在がバレる事なく、背後に回ることができる。和田くんはうつ伏せに殺されていた……背中に複数の刺された跡と、首ですね。これは犯人に背後から襲われた、ということになります」
古田くんは淡々と説明し始めるが、正直朝からそんな話は聞きたくなかった。だが潤はその話に食らいつく。
「なるほどな、確かにそれなら」
「あと一つ」
「ねえ、朝からそういう話、やめない?」
潤は彩乃の怯える様子を確認したのか「ごめん」と謝った。古田くんには「後で聞きに行く」と伝え、2人はそのまま食堂に向かった。
古田くんはそんな2人の背中を見つめながら立ち尽くしていると、突然くるっと後ろを向く。
「さっきはごめんな」
「ううん、大丈夫」
2人は食堂に着く。
食堂には飯田さんが一人、座って食事をしていた。
◆◆◆
厨房から食事をとり、2人は飯田さんの近くに座る。飯田さんは不思議そうな表情を向ける。
「おはよう、飯田さん」
「おはようございます、えっと……村木さんと須藤さん?」
飯田さんは軽い会釈をし、パンを頬張った。
「飯田さんは、よく眠れました?」
「はい」
「良かった」
「徘徊禁止時間は、一番安心して寝れますね」
「そうですね、潤なんて、今にもベッドから落ちそうなくらいぐっすりでしたよ」
飯田さんは少しだけ笑顔を浮かべる。
「飯田さんは、何でここに来たの?」
「おい彩乃」
「あ、ごめん」
「ううん、大丈夫。大学に行きたくて、少しでも貯金稼げたら良いなくらいだった。兄が職についてないフリーターで、ずっと家に引きこもっててさ。そんな兄とは別、私は真面目な人生を送ろう、その為に大学のお金を稼ごうって思って来たの」
やっぱりその理由は、彩乃より濃いものだった。みんなちゃんとした目的でここに来ている。
「そうなんだ」
「でも少しでも生活の足しになってくれればいいな、くらいで。このくらいあったら一人暮らししてから半年くらいは過ごせそうですし、バイトもします」
高校1年生でそんな先の事を考えて動いているなんて、彼女はやっぱり大人だ。
「今はバイトしてるの?」
「はい。月4万円くらいしか稼げませんが、このバイトで約2ヶ月と少し分稼げています……そう考えるとこのバイトは大きいですよね」
――人を殺せば20万円。バイト5ヶ月分。
そんな理由で、彼女は殺人を犯さないだろうか?と心配になってしまう自分がいたが、恐らく大人な彼女なら大丈夫だろう。
そう思っている彩乃の頭の中には、
彼女が人を殺しているかも?という疑いは消えていた。
多分、全員と仲良く話しているうちに、自分の中ではそんな疑いがどんどん消えて行って、全員が真っ白になってしまう……そんな気がしていた。
自分は、他人を美化したいだけなのかもしれない。
◆◆◆
新は娯楽室に向かっていた。
娯楽室に入り、ダーツの方へ向かって行く。
「……ん」
すると、娯楽室の中央テーブルに何やら紙を見つけた。
『今日、誰かを殺します』
メモにはそう書かれていた。
その文字は、利き手じゃない方で書かれた文字のようで、とても汚い字だった。
新はそのメモを握りしめ、ポケットにしまう。新は常にナイフを持ち歩いていた。
――俺を殺しに来たら、返り討ちにしてやる
新は怒りを込めたダーツの矢を投げた。
◆◆◆
古田はドアをノックする。
「……?」
ドアを開けても、中には誰もいなかった。
この人はもう、部屋の外に出ているのだろう。
「何しているんですか」
廊下に立つ琴美の姿。
その表情は気持ち悪いものを見るかのような冷たいものだった。
ここは女子の階。
そう見られてもおかしくはない。
「飯田さんなら、食堂かもしれませんよ」
「……そうですか」
古田はドアをしめ、食堂に向かった。
「ねえ」
古田が琴美を通り過ぎた時、琴美は彼を呼び止めた。
「アンタも、飯田さんが殺したと思ってる?」
「……いえ」
「やっぱり?」
「はい。ですがまず、何故和田くんが共有トイレにいたのかが気になります」
それぞれの個室にはトイレが付いている。だけど和田は廊下を少し進んだ先の、共有トイレで死んでいた。
「……だよね」
「一緒に見に行きませんか?何かヒントがあるのかもしれません」
「どこへ?」
古田は琴美の方を振り向く。
「和田くんの部屋と、その個室トイレです」
琴美はこくりと頷いた。




