5日目② 人殺しになる
古田はナイフを葉月に向ける。
琴美は刺された場所を押さえ、辛そうな表情のまま立ち、新と葉月の2人を睨んだ。
ナイフを持たない琴美、そして潤を殺した新は何も手を出すことは出来ない。
「残念でしたね」
古田は葉月に言い放つ。
「あなたのミスは、僕たちを縛って床に寝せた時、僕と琴美さんの手が届く距離に寝せたという事。布を被らされて、新くんや葉月さんに気づかれずに、手の布を解くことができました」
葉月は新を睨み、命令する。
「そいつを押さえて」
「……」
「暴力振るわなければ大丈夫よ。それに彼はあなたのことを殺せないわ。だって彼が殺したいのは私だもの」
古田は新にナイフを向けるも、新は向かう足を止めなかった。
「新くん、君はどうしてこいつに従っているんですか?」
「……」
「彼は君の友人を」
「うるせぇ!!」
新は足取りを早くして、古田のすぐ目の前まで来た。新が古田のナイフを持つ右手の手首を強く掴んだ時、新の首輪の作動音が聞こえた。
だが、それでも彼はナイフを放さない。
「古田くんっ!!」
彩乃は叫んだ。
古田が横を向いた時はもう遅かった。
「ぐっ……はっ……!」
再び古田の脇腹にナイフが突き刺さる。だが古田は手首を掴まれたままのため、何も対抗ができない。手首を掴まれたままその場に膝をつく古田。
「古田くんっっ!」
次に葉月は、古田の手首を掴んだままの新の事を刺した。新は何が起きたのかと目を見開き「なんで……」と呟きながら、古田の目の前で同じように膝をつく。
「なんで、なんでこんなことするの!?」
琴美は叫ぶ。
その間に、彩乃はゆっくりと制服の背中の方に仕込んであった青グリップのナイフを取り出す。
「……教えてあげるわ」
「ぁぁぁっ!」
新の腹にもう一度ナイフを刺し、彼は断末魔をあげてその場に動かなくなってしまった。
彼は絶命したのだ。
一昨日……潤くんと争った時からの出血や傷が大きかったのだろう。
葉月は次に、古田に向かってナイフを構える。
彩乃はその隙を狙った。
「ああああっ!」
ナイフを持ち、叫びながら葉月の背中目掛けて走った。ナイフは彼女の背中に命中した。
「ぐっ……?!」
彼の言葉が脳裏を過ぎる。
――彩乃には、人殺しになってほしくない
彩乃は謝った。
何度も何度も、心の中で。
でも、誰かを見殺しにして自分も殺されるよりなら、誰かを守って自分が悪者になりたい。
「くっ!うぁぁぁぁぁっ!」
彩乃はナイフを振り下ろした。
葉月は苦しそうな声をあげ、その長い脚で彩乃を蹴り飛ばす。ふらふらと立ち上がった葉月は、そのまま彩乃の方へ向かって行く。
「彩乃さんっっ!」
葉月が離れた隙に、すぐに古田に歩み寄った琴美は、葉月の背中を見てそう叫んだ。
古田は琴美の力を借りてゆっくりと身体を起こし、その場に膝をつくと、ナイフをダーツのように投げた。
「ぁぁぁっ!!」
投げたナイフは葉月の太腿に命中。
そして古田は叫ぶ。
「今です……!」
「ああああああああっ!」
彩乃は泣き叫び、葉月の腹に思い切りナイフを突き刺した。
◆◆◆
葉月は絶命した。
古田は膝をついていたが、力が入らなくなったのかその場に倒れてしまった。
「古田くんっ!」
「……っ」
「待ってて、救急箱持って来る!」
彩乃はそう言って空き部屋から出て行った。
「……琴美」
「喋らないでっ」
「葉月……の、服の中……に」
「服の中……?」
「赤グリップナイフの説明カードが入ってないか……見てくれないか。その内容を知るまで……僕は死ねない」
「ダメ、死なせない!」
「……琴美、僕はそのうち死ぬ」
琴美は大きく首を振った。
「僕の死を、無駄にしてほしくない……」
琴美は言っている意味が分からなかった。
すると、空き部屋のドアが少し開き、青グリップのナイフが床をスライドした。
「……なに?」
「……僕が、あの監視カメラに向かって、指示を出したんだ」
「指示……?」
「捨てられたナイフを拾ってきてって……ジェスチャーさ……」
「なんで……」
「僕を殺せば10万円が手に入る。僕はもう時期死ぬから、このまま10万円を自然消滅させないでほしい」
琴美は首を大きく振った。
「いや、いや!!」
古田は床を這いながら葉月のポケットを漁る。そしてブレザーのポケットに入っていたカードを取り出した。
「良かった……見れた……」
“赤色のナイフ”
何人でも殺す事の出来るナイフ。しかし5日目終了時に自分以外の全員が死亡していないと処刑の対象となる。
全員は開始時に10万円の受け取り権を持っている。一人を殺すと、殺した相手が貰える金を、自分の貰える金と合わせてもらう事ができる。
「……そうか」
「これって……」
葉月が言っていた。
「仕方ない」と。
これはカードの命令。
赤グリップナイフを持った者のルールなのだ。
「これのせいで……彼女は殺人を……」
「だから、手懐けた新をも……」
「そんな、そんなっ!」
古田はその場に倒れる。
目は虚になっていて、呼吸が薄くなって来る。
「古田くん?!」
「はやく……琴美……君の手で……」
「いや、いやっっ!」
「誰も君を、恨まない。ただ殺されるじゃなくて……僕に、君のためにっていう……死の理由をください」
琴美は衰弱していく古田の事を、涙を流しながら見つめた。古田が死ぬ最期まで、琴美はずっと古田の事を見ていた。
彼女は、人を殺さなかった。




