3日目① それぞれの過去
3日目になった。
潤と特に何を話すわけでもないが、彩乃は不安感を押し殺すために常に共にいた。
午前中は、潤以外の人と会う事は無かった。
相変わらず、真帆ちゃんの部屋からは喘ぎ声のようなモノが聞こえて来る。
彼女の部屋を通るたびに思う。
何故、飯田さんはナイフを持って彼女の部屋に行ったのだろうか?その真相はおそらく本人しか知らないだろう。
◆◆◆
昼になり、2人は食堂にやって来た。
すると、そこには3人の人影が。
新と、葉月さんと真帆ちゃんだった。
それぞれ2人と1人は離れた場所に座っていた。
「こんにちは」
彩乃は新に挨拶をして、近くの席に座った。
「……」
新は目線も合わせず、ただ黙々と食事をしていた。潤も何事もないように食事を進める。
「新くん……は、何でここに来たの?」
「大した理由なんてねーよ、ただ金が欲しかっただけだ」
「そうなんだ、じゃあ和田くんは?」
彼は冷凍食品の炒飯を食べる手を止めた。
不味い事を聞いてしまっただろうか?
「あいつは、親が病気だった。あいつのおばさんは手術を拒んだんだ。先の長くない命に大金使うより、お前が使いなさいって和田に言ったらしいんだ」
和田くんも、両親の為に……。
そう思うと、とても心が痛くなって来る。
「あいつはヘラヘラしてるけどほんと優しい奴でさ、その優しさには助けられたよ」
「それで、彼は両親の手術代を少しでも支払う手伝いをしたいと、ここへ?」
「あぁ、最低10万円って書いてたから、あいつはその最低っていう文字に期待してた。頑張り次第で増えるかもしれないって」
10万円という文字を見ると、少ないと感じるかもしれないが、5日間施設で過ごすだけで10万円というのは、かなり大きな数字だ。
「でも、あいつが生きてたらきっと、誰かを殺してた」
「……」
「殺人が3回も起きたら、自分より大金を手にしている人が3人いるんだ。そいつを殺せば30万円になる。いや、そのうち他の奴らが殺し合っているのを待てば、もしかしたら50万円とか増えたかもしれない。そんな期待を持ちそうで……俺はあいつを殺人者にしたくない。だけど死んでくれてよかったなんてのも思っていない」
新は彼のことを思い出しながら話しているせいか、その目には涙が浮かんでいた。
「俺は、あいつを殺した奴を許さない」
「……」
潤は無言で話を聞いていた。
「ここを出てからでも良い、犯人が判明したら俺はそいつを殺す。例え俺が捕まったとしても、必ず。あいつの想いをナイフで踏み躙った奴は、絶対に許さない」
新は「ごちそうさま」と言うと、厨房に向かっていった。
◆◆◆
潤は彩乃と分かれ、部屋に戻った。
すると、机の上に1枚の紙切れが置いてあった。
『今日の夜、会議室で待ってます。by.坂本殺しの犯人より』
背筋が凍りつきそうだった。
坂本殺しの犯人が、潤を呼んでいるのだ。
潤はこの事を彩乃に話そうと、部屋を出ようとしたがその足を止めた。彩乃に話して、彩乃にもしものことがあってはいけない。
潤は金庫を見下ろす。そのまましゃがみ、ダイヤルに手を掛けた。
◆◆◆
3日目は、それからも何もない時間が続いた。
外は晴れていて、虫の声が聞こえる。
そんな明るい時間も過ぎていき、夕方になる。
夕食に行くと、次は古田くんと会った。
「古田くん、今日は琴美ちゃんとは一緒じゃないの?」
「はい。琴美さんはお風呂に行きました」
「あはは、ちゃんと位置情報は共有してるんだね」
「当然です、彼女がいつ殺されるか分かりませんから、情報は掴んでおかないと」
彼なりにジョークのつもりなのだろうが、彩乃にはそのジャークは通じなかった。
「軽いジョークです」
「……」
「気を悪くさせたらすみません」
隣で食事を進める潤は、昼間と同じように黙々と食事をしている。
「そうだ、これみんなに聞いてるんだけど、古田くんは何故ここに来たの?」
「たまたま声を掛けられました」
「たまたま……?」
「はい、川沿いで黄昏ていたら、たまたま。まぁお金が欲しかったですし」
彼は目的が無い、人数合わせという事だろうか?
「因みに琴美さんは、貧しくて暴言のひどい母から独立したかったらしいです。バイト以外での収入が欲しかった……と言っていますね。
彼が説明すると、琴美ちゃんもお金目的に聞こえるが、貧しくて暴言のひどい母からの独立という言葉に、少し重みを感じた。
「では、僕は帰ることにします」
「うん、また明日」
「はい」
「……潤?」
潤の手は止まっていた。
「いや、ちょっと考え事をしててさ」
今日、真実を知る事になる潤は、緊張で思考が止まっていたようだ。




