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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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海といろいろ(8)

続きです。

 太陽の位置はまだ変わらない。

あれからまだそれほど経ったわけではないが、こう何もしない時間がずっと続くと流石に限界が見えてくる。そもそも私飽きっぽいし。

海を眺めながらちびちび飲んでいたジュースも、もう半分程度まで飲んでしまった。

「どっか行かない?」

「荷物番が要るでしょうが」

 さくらはつれない。言い分はもっともだし、やっぱり仕方ないのだろう。

 退屈しのぎに足をもぞもぞさせて砂を掘っていると、指先に何か硬い感触が伝わった。

「ん?なんだろ......?」

 砂に手を突っ込んで拾い上げると、それは貝殻の欠片だった。

綺麗な白で、巻き貝系ではなく二枚貝系。均一に溝が走り表面は凸凹だ。擦り合わせたらいい音がしそうだ。

 拾い上げたそれをゴローに見せびらかす。

「ねね、見て見て、なんかこういう形のポテチあるよね」

「......その例え、分からなくもないけど風情がないニャ」

「もっと掘ればあるかな......?」

 足で更に深く掘り進める。

しかし、何かしら出てくる様子はもうなかった。

 私がガッカリしていると、さくらが口を開く。

「別に貝殻くらいならそこら辺にいっぱい散らばってるわよ。あんた本当に海来たことないのね......」

「まじぃ......?」

 言われて中腰のままビニールシートの周りで貝殻を探し始める。

「ほら......そこ。そこにあるのも貝殻よ」

 さくらが座ったまま指を指す。

その先には確かにさくら色の小さな貝殻が埋もれていた。

「ほんとだ」

 それも拾って、手のひらに収める。

この貝殻は先程のものと違い表面がツルツルなので、楽器には向かない。ただ色は綺麗だ。薄いピンク色のちっちゃいの。

「ねぇ、貝殻って昔お金だったんだよね?......これ、売れるかな?綺麗だし」

「キミ、そんな気持ちで今貝殻拾ってたのかニャ......」

 ゴローはそこら辺を飛んでいる。

いよいよ人目は気にしなくなってきたが、そんな強いこだわりでもなかったのだろうか。

「てか、売れないでしょ。こんだけ落ちてりゃ......」

「だよねー......」

 ボヤきつつも探し続ける。

あまり性には合わないけどこういうのもたまにやると楽しい。

 私がシート周りをウロウロし始めると、さくらも貝殻探しに加わってきた。ライバル出現だ。

「じゃ、先に十個見つけた方が勝ちね」

「いや、貝殻集めに普通勝負持ち込む......?」

 と言いつつも、さくらは手際よく見つけて拾っている。

私はまだ二個だ。

「あ、キレイ度も評価基準ってことで......」

「ひどい後出しニャ......」

 熱された砂に足跡をつけて貝殻を探してウロウロ。冷静に考えると何をやっているのか意味不明だったが、そんな冷静な思考が長続きしないのが私だった。

さくらはもともとこういうのが好きなようで、思考にノイズが走る様子はない。

 貝殻十枚はすぐに集まった。

といってもさくらよりはだいぶ遅かったが。

「じゃ、ゴローが審判ね」

「採点基準から集めたスピードが消失してるじゃないの......」

「まぁまぁそう言わずに」

 さくらは納得はいかないようだが、そういうものとしてとりあえず受け入れてくれた。

 さくらと向かい合って貝殻を並べる。私とさくらの間でゴローが腕を組んでその様を見下ろしていた。

 並んだ貝殻は正直どれも似たような見た目をしている。たださくらと私の間には明確な選考基準の違いがあることははっきり分かった。

私は今で選び、さくらは色と形の総合で選んでいる。

「これは......」

 負けたかもしれない。

しかし一番色鮮やかなものは私の陣営にある。まだ分からないと、ゴローの審判を待つ。

「......」

「......」

 私かさくら、どちらかの唾を飲み込む音が聞こえた。

「......いや、普通にさくらの勝ちじゃないかニャ?」

「審判!公正なジャッジを!」

「いや、わりとそのつもりだったんだけど」

 異議を申し立てるが、ゴローの結論は覆らない。自分でもまぁそうだろうとは思ってた。

「ちくしょうっ!」

 握りこぶしで砂を叩く。

「私に勝とうだなんて千年早いのよ」

 さくらが勝ち誇る。

まぁ私一回勝ってるんだけど。

 そこに、やっとみこちゃんのお母さんが戻ってきた。

「二人とも何やってるの?」

 濡れた髪から海水がポタポタ垂れていた。

「あ、貝殻集めてたの。女子力ぅ〜」

「別にそんなんじゃ......」

 みこちゃんのお母さんが再びビニールシートの上に落ち着く。

そして、私たちの背中を押した。

「行っといで。ごめんね、私も久しぶりでちょっと楽しくて......」

「あ、別にまだ遊び足りないなら......」

「子供が気を使うもんじゃないよ。それに私は疲れちゃったし」

 お母さんの額を海水が汗の代わりに伝った。

「じゃ、行くわよ」

 さくらが立ち上がる。

今度はさくらが私に向かって手を伸ばした。

「分かった」

 その手を掴んで、私も立ち上がる。

目の前に広がるのは海。

この貝殻集めの時間は高まる気持ちを落ち着かせるのに必要だったのかもしれない。

「戦いは冷静じゃないと勝てないもんね」

「何言ってんの?」

「何言ってるニャ?」

 静かな気持ちで、波打ち際に向かう。静かな気持ちだから二人の冷たいリアクションも気にしない。

 一歩一歩踏みしめながら、私にとっての未知数である海を目指した。

続きます。

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