海といろいろ(6)
続きです。
砂浜に波が寄せては引いていく。
その度に足の指の間からサラサラ砂が流れ出していく感覚がなんとも言えず気持ちよかった。
波が打ち寄せる度、足は濡れた砂に飲み込まれていく。指先をもぞもぞ動かせば、土も一緒に盛り上がったり凹んだりするのだった。
「念願の海じゃないか、そんなところに立ちっぱでどうしたニャ?」
「え、普通に楽しんでたところなんだけど......」
まぁ確かに傍から見れば確かに一人でずっと棒立ちは不審だったかもしれない。
それにぶっちゃけ海初心者すぎて、どうやって遊べばいいか分からないところも少しある。
どらこちゃんは泳ごうとしては沈んでを繰り返して、みこちゃんの手を借りて浮かび上がるのを繰り返していた。
別に私も今から泳ぎ出しても構わないのだけど、なんとなくそれはまだかなという気がしている。本当になんとなくで特にこれというような理由はないのだけれど。
「あれ?ゴロー、さくらは?」
景気づけに一緒にダイブした後、砂に足を埋めていたら、いつのまにかその姿を見失っていた。
ゴローがビニールシートの方を向いて答える。
「さくらなら向こうでおにぎり食べてるニャ」
「あ、ほんとだ」
みこちゃんのお母さんがクーラーボックスをテーブル代わりにしてカップアイスを食べている横で、もそもそおにぎりを咥えていた。
とりあえずその側に駆け寄る。
「何食べてんの?」
「シーチキン」
「海で食べるとマグロに呪われるよ」
「馬鹿言ってんじゃないよ」
体育座りをしておにぎりを頬張るさくらの隣にあぐらをかく。
さくらはシートの上で私は砂の上だ。
乾いた砂にすぐ付着した水分が吸われていった。
「水に濡れたから、今日もデコが出てないね」
さくらの前髪は海水に濡れ、纏まりながら垂れ下がっていた。
「あんただっていつもと髪型違うじゃない」
「水中仕様のポニーテールだよん」
私も私で頭の後ろで髪を束ねている。いつもはそのままだが、アリスに会ってからちょいちょいいじるようになっていた。
今日はお試しでやったポニーテールだが、今年の夏はずっとこの髪型でもいいかもしれないとちょっと思っていた。楽だし。
「それポニーテールって言うの?長さ足りてなくない?短小テールじゃない?」
「え、そう......?」
言いながら頭の後ろの尻尾を人差し指で弾く。
確かに普通にポニーテールと言うには短いかもしれないが、それ以外になんて呼べばいいのか分からなかった。
みこちゃんのお母さんがプラスチックのスプーンを咥えて注釈を加える。咥えて、加える。
「短くってもポニーテールって言うよ。......たぶん」
「ふぅん」
ポニーテールを掴んでみる。
それはほとんど手のひらの中に収まってしまった。
私の顔を覗いてさくらが尋ねる。
「何?正統派ポニーテールにしたいの?別に髪伸ばすのもいいと思うわよ?」
「うーん、いや......暑そうだし......」
ただどうせならと言う気持ちもあるので、涼しい季節になったら考えるかもしれない。それまで覚えていたらの話になるが。
「さて、君たちがここに居るなら私も泳いでこよかな」
アイスを食べ終わったみこちゃんのお母さんがわざとらしくそわそわしだす。
「あ、いってらっしゃい......です」
「じゃ、この場所は任せた!」
言って、水泳の授業をしているみこちゃんたちのところへざぶざぶ向かって行った。
「行っちゃったニャ......」
「まぁみこが言うには結構ウキウキだったみたいだし......?」
さくらが車の中で飲んでいた炭酸飲料の蓋を開ける。
「なんか......ああいうお母さんも居るんだね」
ペットボトルに口をつけて喉を鳴らすさくらの方を向いて言う。
私は自分のお母さんを知らなくて、さくらのお母さんはちょっと闇......病み?
親子関係も色々あるんだなぁと思った。
「いろいろ、色々......」
空を見上げる。
晴れ渡った青空に太陽が燃えていた。
眩しくて目を細める。
「けふ。ま、いいじゃない。色々あって。楽しそうだし」
炭酸飲料を飲み切ったさくらが言う。
空のペットボトルがシートの上を転がった。
波の合間ではしゃぐ三人を見る。
相変わらずどらこちゃんは水に浮かなかった。
続きます。