鏡の中の“私”(5)
続きです。
鏡を割ったことを母さんに叱られた。理由も聞かれた。
僕は答えられなかった。
答えられるはずもなかった。
アリスが部屋のクローゼットを漁り出す。本来であればその中には服を入れていないはずなのだが、その中には色とりどりの服が並んでいた。
「......うーん」
悩みながらもアリスの腕は水色の服へ向かう。ココの言っていた属性云々も案外馬鹿にならないのかもしれない。そう言えば、あれ以来どうしているのだろうか。
考えているうちに、アリスが一式を選び抜いて私が座る椅子の前に戻ってくる。白いTシャツに、水色のパーカー。縞々の靴下と、短めのスカート。いかにもというような感じだった。
それらを携えたアリスが笑う。
「じゃ、服脱いで!」
「うぇ......ここで!?」
「ここで!」
アリスが親指を立てる。
その親指と睨めっこするが、アリスが発言を取り下げる様子はない。
「はぁ......しょうがないなぁ」
仕方なく折れる。
椅子から降りて一枚ずつ脱いでいくと、何やってるんだろうという思いが込み上げてきた。
肌着のみになってアリスの前に立つと、それはなおさら膨れ上がる。
「さ、流石にここまででいいよね......」
空気に晒された太ももを擦り合わせながら聞く。
「うん!いいよ!」
アリスはそう言いながら私に服を手渡した。
両手に乗っかるのは、どこかで見かけたような、それでいてまだ見たことのない服。よく馴染む手触りから、あまり高価なものではないようだ。
Tシャツに袖を通す。
教えたわけでもないがサイズもぴったりだった。手慣れていると目測である程度分かるものなのかもしれない。
「その服は......」
アリスが何だかんだと説明してくれるが、正直半分も頭に入らない。
次は靴下に手を伸ばす。
この順番でいいのだろうか。
普通靴下は最後な気がする。と言っても靴下を取ったのは私なのだが。
その理由もちょっと考えればすぐ分かった。
靴下に足を通すと、それは膝の上まで伸びる。夏に履くには少し暑かった。冬にはいいかもしれないと少し購入を検討した。
そして上着のパーカーを羽織ってチャックを閉じる。
「あ、ちょっとちょっと!前は閉じないで!」
するとアリスが慌ててそれを制した。
「え?何で......?」
「何でって......何でも!その方がなんかお洒落でしょ!」
割とふんわりした理由だった。
言われるままにチャックを下ろす。
内側の白い服が再び露わになった。
最後にスカートに手を伸ばす。
「うぅ......」
やっぱりスカートには少し抵抗があった。
「どうしたの?」
アリスがスカートを持って難しい顔をした私を覗く。
「いやぁ......ちょっと、スカートは苦手っていうか......恥ずかしいっていうか......」
「いや、今の格好の方が恥ずかしいでしょ......」
「それはそうなんだけど......」
ていうかそれが分かってて脱がせたのか......。
煮え切らない私を見かねて、アリスが私の手からスカートを攫う。
「はい、足上げて!」
結果的にお漏らしした子どもみたいに着替えさせられてしまった。
アリスのポケットから姿鏡が飛び出す。やっぱりそう言うサイズとか量とかは無視するタイプのポケットだったらしい。
その小さな体で、自分より大きい鏡をズドンと配置する。
その前まで私を読んで笑った。
「どう?」
その顔は自信でいっぱいだった。
鏡に映る私は、まるで別人......とまではいかないけれど、やっぱりいつもの服装とは全く雰囲気が違う。
お洒落と言えばそうなんだろうけど、やはりなんだか小恥ずかしい。
太ももの辺りの風通しがいいのには、いつまで経っても慣れそうになかった。
「な、なるほど......」
もともと知識が浅く気の利いた感想も出てこない。まぁ誰かがこの服装をしていたら褒めるのかなとは思う。
「もぉー......恥ずかしがってちゃダメ!もっと胸張る!」
「うえへぇ......」
鏡の前であれやこれや体を傾ける。
恥ずかしさは抜けないが、みんなに見せられないのは少しもったいないかなと思った。
続きます。