My name is...(8)
続きです。
竹林のおじさん家の前まで来た。流石に無許可で入るわけにもいかないだろうとゴローに言われてしまったのだ。
おじさん家の庭に入ってインターホンを鳴らす。
「お庭広くていいなぁ」
「そう言えば、キミの家って庭あるのかニャ?」
「あることはあるよ。......小さいけど」
そんなことを話してる間に、扉が開く。
出迎えてくれた人は知らないお姉さんだった。
「こ、こんにちは」
人見知りはあまりしない方だと思うが、ほとんど不意打ちだったので声が小さくなってしまう。
「あら、可愛いお客さん。どちら様かな?」
「あー、えっと......あのあっちから来ました」
ゴローと一緒に辿ってきた道を指差して言う。
完全に情報不足である。
「あー......蒼井さん家のところかしら......」
何事か考えているようだったが、お姉さんが恐る恐るといった感じで言う。
「もしかして......きららちゃん?」
「あ、はい。そうです。おじさん居ますか?」
「あらぁ、すっかり大きくなったねぇ。私のこと覚えてる?まぁ覚えてないか。まだこーんなに小ちゃかったもんね」
一人でなんだか盛り上がり始めたが、こっちとしては全く記憶にないので反応に困る。
「おじ、おじさん......居ますか?」
思考放棄して同じ言葉を繰り返す。
お姉さんはその言葉を聞いて笑った。
「ごめんなさいね。今呼んでくるからちょっと待ってて」
そう言って家の奥に戻っていった
「お父さん」と呼ぶくぐもった声が聞こえてきた。
「邂逅......いや、久しぶりの再会はどうだったかニャ?」
バッグからゴローが見上げる。
「大体分かるでしょ」
「まぁ覚えてないものは仕方ないニャ」
言っている間に、おじさんがのそのそとやって来る。
毛髪の減少に時の流れを感じた。
「やぁやぁ、随分ご無沙汰だったね」
にこやかな表情と快活な喋り方には懐かしさを覚えた。
「久しぶりです」
おじさんが既に地肌が見えている頭を掻く。
「ほんで、今日はどうしたんだい?」
訊きながら、私の手に缶ジュースを握らせる。
「あ......ありがとうございます」
「なに、たまたまあっただけさ。それでご用件は何かな?おばあちゃんのお使い?」
おじさんが身を屈めて私と目線の高さを合わせる。
「あ、違くて......おじさんの竹林に入りたいんだけど、いいですか?」
おじさんはポケットの中から鍵を取り出して
「もちろん構わないさ」
と笑う。
そうだ。
あの時も確か軽トラに乗って行ったんだ。おばあちゃんが助手席で私が荷台。走ってるときの風が気持ちよかったんだ。
「ん?」
助手席に乗って、シートベルトをする。
おじさんは車のエンジンをかけ始める。
「あれー......?」
「どうしたニャ?」
明らかに様子のおかしい私にゴローが小声で尋ねる。
「いや、私たちこの先の竹林に潜んでるって踏んだじゃん」
「そうだけど、それがどうしたニャ?」
蘇った記憶と事実が噛み合わないのだ。
「記憶の中の車に乗ってた時間と、竹林までの距離が明らかに合致しないんだよね......」
エンジンがかかり、車が走り出す。
「ほいじゃ、出発するぞぉ」
おじさんはかなりやる気な様子だ。
「これは......」
ゴローが呟き、私を見る。
「あちゃーってやつだわ」
車体は庭を抜けて行った。
続きます。