カラーカテゴライズ(6)
続きです。
カーテンの隙間から日の光が差し込む。それは熱となってタオルケットを蹴り飛ばした体に覆い被さる。
背中にはじとっと薄ら汗の感触が張り付く。
既に誰もいない部屋で、私は目を覚ました。
「みんなはもう下でのんびりしてるニャ」
言うゴローは未だにぐるぐる巻きで、その声はこもって聞こえた。
「おはよう。みんなは?」
「いや、今言ったニャ......」
「ああ......なんだったっけ......」
日の光が眩しい。おまけに暑い。
瞼の奥には鈍く眠気の塊が転がるが、再び眠りにつく程ではなかった。
部屋のドアが開く。
入ってきたのはさくらだ。
今はしっかり前髪も分かれている。
「あんたやっと起きたの......?」
「昨日結構夜更かししたじゃん......その所為で」
別に夜遅くまで起きていられないわけではないが、不足した分はしっかり寝ないとダメなのだ。
「あんたみこの次にダウンしてだじゃないの......。ちょくちょく纏わり付いてきて暑苦しいったらありゃしない」
「そんなにぃ......?」
「そんなに」
あくびを混じえて体を起こす。
やっぱり結構な寝汗をかいていた。
敷布団をさするとうっすら湿っているのも確認できる。
「さっさと着替えて、顔洗って。みんな待って......はいないけど、まぁ早く来なさい」
「待ってないんかい」
さくらが荷物からメガネだけを取り出して一階へ降りて行く。
普段はメガネをかけていないので、なんだか意外だった。
私も荷物から着替えを取り出して、とろとろパジャマのボタンを外し始める。
「ほら!ほら!そういうところニャ!」
「へ?」
「だからキミ、無防備なのニャ!」
突然叫ぶものだから何だと思ったが、言われて気づく。
慌ててボタンを外す手を止めた。
「あはは......確かにこれじゃパンツも見えるか......」
「これからもそんなだと、ちょっと心配ニャ。気をつけて欲しいニャ。ボクの為にも」
「そだね」
自分の身を案じるところもあるのだろうが、ゴローの言葉には純粋な心配も滲んでいた。
私も不要な心配はかけたくないので、肝に銘じる。たぶんあと数回注意されれば治るだろう。
ゴローが簀巻きを解いて、自主的に部屋から出て行く。
それを見て再びボタンを外し始めた。
首を鳴らしながら、みんなのところへ向かう。
みんなはテレビの前でレースゲームに勤しんでいる。カメの甲羅とか飛ばすタイプのやつだ。
今はどらこちゃんとさくらがコントローラーを握っている。
みこちゃんは後ろのソファで牛乳を飲みながらそれを眺めていた。
「あ、起きたんですか?」
私に気づいたみこちゃんが振り返る。
とりあえず私もその隣に腰掛けた。
「みこちゃんってゲームするんだ......意外」
「あ、今やってるのはお友達呼んだときようのやつです。普段はすることはするんですけど、こういうのはあんまりですね」
「ほえー」
「あ、コントローラーは二つしかなくて......」
「あ、別に気にしなくていいよ」
ゲーム画面に視線を注ぐ。
どらこちゃんがショートカットに失敗しているのが見えた。
「きららちゃんも何か飲みますか?」
みこちゃんがカップを傾けて言う。
中の白い液体が小さく波打った。
「私はいいや。顔洗うとき一緒に水飲んだし......」
「え......」
私の発言が微妙に引かれる。
「顔洗いながら飲むんですか......?」
「あ、いや......流石にそれは違うよ」
本当はそうだったけど。
「負けたぁぁぁぁ」
どらこちゃんがコントローラーを持って後ろに倒れる。
ついでにという感じでみこちゃんの足先を掴んでいた。
「なんですか?」
「なんでもない」
さくらがメガネを外して汗を拭う。
「ショートカット狙いすぎなのよ」
最後にちゃっかり抜かれて二位だったさくらが勝ち誇る。
どらこちゃんは三位だった。
「じゃあ次はきららとみこか?」
どらこちゃんがコントローラーをみこちゃんに突き出す。
「あ......私、血とか出ないのはあんまり......」
「え」
「あ......なんでもないです」
どらこちゃんの腕から私がコントローラーをかっさらう。
「じゃ、決勝進出ってことで私対さくらかな?」
「あんた弱そう」
「うっさい」
操作方法分かんないけど。
さくらがメガネをかけ直す。
私もどらこちゃんと入れ替わるようにしてテレビの前に移動した。
そのタイミングで、インターホンが鳴り響く。しかも連打。
「なんでしょうか......」
「あたしが見てくる」
立ち上がったどらこちゃんの背中に張り付いてなんとなくついて行く。
みんなも意味もなくその後に続いた。
扉を開けると、サメを模したフードが目に入る。
その牙の隙間から見える顔には、見覚えがあった。
「あ、あんた......!」
「見つけたぞ水色!絶対許さないかんな!」
続きます。