カラーカテゴライズ(3)
続きです。
「で、ここに来たんですか?」
薄暗い空をカラスが通り過ぎる。
みこちゃんが支えるドアの隙間から、照明の光が溢れていた。
一切の事情を話しても尚、みこちゃんは困惑しているみたいだ。
私が背負うのは大荷物。
みこちゃんの家に泊めてもらおうと企んでいた。
「ダメですよ。お泊まりは禁止って先生言ってたじゃないですか」
「保護者同伴だから大丈夫ニャ」
「保護者......なんですか?」
みこちゃんが後ろに視線を送る。
両親とコンタクトをとっているみたいだ。
しばらくして、みこちゃんが振り返る。
「分かりました......いいですよ......。けど、後ろの二人はなんなんですか......?」
みこちゃんがため息混じりにぼやく。
その指は私の後ろに我が物顔で並ぶ、どらこちゃんとさくらだった。
「いやぁ......どうせならと思って」
私の背後でどらこちゃんがピースサインをする。さくらは私の荷物を漁っていた。
「はぁ......。しょうがないですね......もう」
困り顔だけれども、先生の言いつけを破る以外の抵抗はないらしく満更でもないみたいだった。
「お邪魔しまーす」
完全に開かれたドアから首だけ出して挨拶する。
玄関に上がると、その後にみんなもぞろぞろ続いた。
その様をみこちゃんの両親がニヤニヤ眺める。
みこちゃんは少し照れ臭そうだった。
みこちゃんの家はというと、畳と障子には縁のない住宅だった。さくらタイプの家だ。
どらこちゃん家は私と同じような和洋折衷のキメラハウス。
清潔な階段を登ってみこちゃんの部屋に向かった。なんで子供部屋って大体二階にあるのだろうか。
みこちゃんがとりあえずベッドの上に落ち着く。
私たちはとりあえず、部屋の真ん中に置かれている丸テーブルの周りに腰を下ろした。
「いやぁ、急に悪いな」
「別にいいですけど......」
どらこちゃんが持参したお菓子の箱をみこちゃんに渡す。
「それで、どんな能力だったのよ......そいつ」
「それは......」
「知らないニャ」
「はぁ......?」
みこちゃんが枕を叩いて言う。
「そ、それより!みんな寝るときどうするんですか?お布団三枚も敷くスペースはないし......私のベッドだって四人は無理がありますよ......?」
「一枚なら敷けるの?」
「はい、一枚なら」
「それなら、ベッドと布団で二人ずつでいいでしょ」
みこちゃんが全員の表情を確認して、私に視線を戻す。
「どうやって分けるんですか?」
「みこちゃん家だし......みこちゃんが決めるのがいいんじゃない......?ね?」
二人の顔色を伺う。
「まぁそうだろ」
「お邪魔してるわけだしね」
二人もそれでいいみたいだ。
「わ、私がですか?」
みこちゃんがちょっと大袈裟に驚く。別にそんな重大なことでもないのに、何をそんなに驚くことがあるのだろうか。
「そんなちゃんと考えないでも、パッと決めるだけでいいニャ」
「うえぇ......」
みこちゃんの視線が泳ぐ。
私たちの顔を何度も往復して、最終的に俯いた。
指先を絡めながら小さな声で言う。
「それなら......私は......どらこちゃん、と......寝ます」
みこちゃんは視線を横に逸らして誰とも目を合わせないようにしていた。
その耳はうっすら赤く染まっている。
そんなみこちゃんの隣にどらこちゃんが移動する。
「ぅあ......」
「決まりだな」
動揺するみこちゃんの肩に腕を回して、にぱっと笑って見せた。
「どう......?」
「今日、超能力者に会いました......」
目の前に突然現れたツインテールを見て俯く。
私は取り逃してしまったのだ。
「私......」
「大丈夫だよ。きっとまた会うし、進化はあなた自身が起こすの。だから戦わなくたって成長出来るかもしれない。気を長くして待つことだよ」
黄金の光を湛えたその瞳は真っ直ぐに夜空を見つめていた。
私はその姿に心底見惚れていたのだった。
「もう一人は......?」
「今日は私だけ。あの人、ちょっと冷たいところあるから......ごめんね?」
首を傾けて笑う。
その姿は異常なまでに私の目には美しく映った。
「あなたにいい未来が来ますように......」
突然の強風に顔を覆う。
その腕をどけたときにはそこには誰もいなかった。
「水色......」
思い出すのは今日の出来事。
家は覚えた。
進化のため、彼女のため、私はあいつに勝たねばならない。
夜の空に浮かぶ月は、流れる雲を薄く照らしていた。
続きます。