カラーカテゴライズ(2)
続きです。
思ったより長い時間居座ってしまったので駆け足で帰路を進む。
「夏ってこの時間でも結構明るいからなぁ」
余計に時間の感覚も狂うというものだ。
少し禿げた横断歩道に走る私とゴローの影が重なる。
どこか遠くを走る車の音が通り過ぎた。
あと少しで家に着く。
「うわっ......!」
もう少しで着くというのに、曲がり角で誰かと衝突してしまった。
お互いにコンクリートに尻を打つ。
幸い車が通ることはなかった。
「ごめん......大丈夫」
尻をさすりながら、相手に手を伸ばす。
持ち上げた視線に映ったブローチには赤い宝石が輝いていた。
「えっ......!?」
驚きのあまり咄嗟に手を引く。
私の後ろからゴローも覗き込んでいた。
引いた手が中途半端な位置で垂れる。
相手はその腕を叩いて、私より先に立ち上がった。
その相手は挑戦的な瞳で私を覗き込む。
「いた!能力者!私の進化の礎......!」
「え......何言って......」
「またクセが強そうなのが来たニャ......」
その少女は私たちの会話を気にも止めず私を観察している。
その視線は私の着ている服の裾で止まり、にやりと笑った。
「見つけた......。水色」
たぶん相手は戦うつもりだ。
そういう時にどうするかというと......。
「あ」
斜め上空を指さす。
「何やってるの?」
流石に引っかからないかと肩を落とす。
「仕方ないか」
膝に手をついて立ち上がる。
そこにゴローが耳元で囁く。
「やる気出したところでこんなこと言っちゃアレだけど......今手持ちが無いニャ」
「あ」
どらこちゃんの家に完全に手ぶらで遊びに行っていたので道具がない。
道具があれば基本的にどうにでもなるが、なければただの人間だ。
「さっきから何?」
ぶつかった少女が詰め寄る。
「......えっと」
どんどん近づいてくる顔から目を逸らす。
内心は阿鼻叫喚だった。意味よく知らないけど。
心拍数が上がる。
夏だっていうのに寒気すら感じる。
背中を冷たい汗がなぞった。
急からか、私の脳はこの状況に対する明確な誤答を選択する。
「ユーフォー!ユーフォー......だ、です!ほら、あっち!」
先程指差した方向を再び指差して叫ぶ。
ゴローは冷静に被弾に備えて後ろに下がっていた。
「お前......バカにするのもいい加減に......」
まだそんなにバカにしていない気もするが、少女がしびれを切らす。
「いや!本当だってば!ユーフォー!」
少女が握りこぶしを作って振り上げる。
「ユーフォー!やめて!お願いです!私を助けてください!」
頭を腕で覆う。
腕の隙間から私の見幕に負けて少女が背後をチラ見するのが見えた。
「隙ありぃっ......!」
一瞬出来た隙に正拳突きを割り込ませる。
吹っ飛びこそしないが少女は再び尻餅をついた。
「今のうちに......」
履いていた靴を「謎の技術ですっごい速く走れる靴」に変えて、その横を走り抜けた。
「あれに引っかかる人初めて見たニャ......。いや、あれは引っかかってたのかニャ?」
「逃げられたんだからなんでもいーでしょ」
家に飛び込んで靴を脱ぎ捨てる。
とりあえず居間のテレビを無意味につけて一息ついた。
「それがなんでも良くないニャ。下手に家の近くだったものだから、完全に家の位置がバレたニャ」
「それってマズイの......?」
「寝込みを襲われたら大変ニャ」
「鍵かかってるし、私が起きるから」
「相手は能力者ニャ......それと、絶対にキミは起きないニャ」
居間のガラス戸からこっそり外を覗く。
庭の入り口にいた少女とばっちり目が合った。
「うわ......」
少女が「あ、そこね」みたいな顔をしている。確証も与えてしまった。
「いや、違う。これ私の家じゃないし。騙すために忍び込んだ知らない家だし」
「誰に言ってるニャ......」
続きます。