ゴロー観察日記(4)
続きです。
ケースそのニ。
サランラップトラップ。
前回の仕掛けが丸見えだったという反省を活かして、今回は完全に不可視だ。完全は言い過ぎかもしれないけど、それでもちょっと意識を逸らせば気づかないだろう。
おまけに手頃だ。
「ゴロー、喉乾いたぁ」
特に意味もなく机に向かって、布団を整えているゴローに声をかける。
「水でいいかニャ......?」
「あぁ......ペットボトルのがいい。......溢れるから」
「溢れる......?」
「あ、いやなんでもない」
大抵ゴローは飲み物を注いで持ってくる。そんなことをされてしまったら当然罠に掛かったときに溢してしまう。
ゴローは依然訝しむようにしているが、冷蔵庫に向かって部屋を出て行った。
その後ろ姿が見えなくなってから、部屋の入り口にサランラップを仕掛ける。大体ゴローが普段飛んでいる高さも把握しているので、その辺りにラップを仕掛ける。
「ありゃ......」
思ったより視認性が高く、シワも目立った。
「ちょっと雑だったかな......」
ラップを剥がして丸める。
それはひとまず机の上に置いて、再びラップを張る。
出来るだけ丁寧に広げて、視認性を下げる。
ゴローの場合足音が聞こえないから、どこに居るかは分からないが、おそらくそろそろだろう。
なんとか罠を仕込み終えて、誰に見られてるわけでもないけど知らん顔で机に戻った。
しばらくしてゴローがペットボトルを抱えて戻って来る。
「さっきのこともあったから少し警戒してたけど......指紋が浮いてるニャ......目の前に」
「いいよ。おいで」
「えぇ......」
ゴローが渋々ラップにめり込む。
「えぇ......」
「えぇ......」
お互いに微妙な空気感になる。
何一つ面白い感じにならなかった。
「なんか......ドッキリって......あんまつまんない?」
「ああいうのはプロがプロに仕掛けるから面白いニャ」
ゴローがラップに張り付かれたままで続ける。
確かに技術不足感は否めなかった。熱湯風呂とか一般家庭ではちょっと難しいし。
「あー......。自由研究どうしよ」
セミが暑苦しく鳴いている。
ゴローからペットボトルを受け取って、それで額を冷やすと瞼の裏側に夏が滲んだ。
続きます。




