ゴロー観察日記(1)
続きです。
重い。暑い。喉乾いた。
ランドセルの肩紐が食い込む。
そのランドセルはというと、今にも弾けそうだ。
両手も図工で作った小物や、理科で使った謎の教材で塞がっている。
ゴローが居なければ確実に持ちきれなかったであろう荷物の数々が、そのまま重りとなって私にのしかかる。
その重圧とは裏腹に心は軽く、解放感と高揚感が混ざったなんとも言えない喜びに満ちていた。
荷物にまみれた私の横を中学生の自転車が颯爽と駆け抜ける。
いつもの通学路、いつもの下校時間。けれども、まるで違う景色に見えた。
明日から、夏休みが始まる。
「はいよ」
玄関で荷物を投げ出して床の冷たさに身を委ねていると、おばあちゃんが麦茶を持ってきてくれた。
ガラス製のコップに水滴が纏わり付いている。カラカラ氷が鳴る音が涼しげだった。
「ありがとう」
受け取ってすぐに口をつける。
喉を冷たい液体が流れるのが心地よかった。
しかし一杯だけでは足りそうもない。
空のコップを持って、おばあちゃんの方を見る。
「あとは荷物置いて、服を着替えた後ね」
おばあちゃんが笑う。
その言葉を聞いて家に上がると、自分が座っていた場所がくっきりお尻の形に湿っていた。
「あらぁ......」
足の裏で申し訳程度に拭って自室に向かった。
いつもなら机に向かう時間。
しかし、当然いつもとは違う。
何せ夏休み。
風呂上がりの体をベッドに投げ出した。
「早速だらけてるニャ......」
「だって夏休みなんだもん」
ちょっとくらいだらけたっていいじゃないかと、うつ伏せになる。
「......それに、ただだらけてるだけじゃないもん」
私の手元にはノートと、消しゴム付きの鉛筆。
夏休みの宿題なんて大抵最終日間近でなんとかなるものだが、そうもいかないものが幾つかある。
それが、読書感想文、ポスター、絵日記、そして自由研究だ。
中でも自由研究は、どらこちゃん、みこちゃん、さくらの名も連ねることになるので重要だ。
「任しとけ」と、胸を叩いてこの自由研究を引き受けたのにはもちろん訳がある。
「ゴローって絵描ける......?」
ノートを開いて、鉛筆を研究対象......もといゴローの眼前に差し出す。
「急に何ニャ......?」
と言いつつも、しっかり描いてくれるのがゴローだった。
そう丁度いい研究対象が目の前に居るのだ。
ゴローがノートの端に、猫を描く。
毛の柄から、おそらく自分自身を描いているものと思われた。
指のない手をしてるくせに、絵は私より上手いみたいだ。
後でノートにメモしようと、頭の片隅に留めておく。
こうして、「ゴロー観察日記」が始まるのだった。
続きます。




