表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
63/547

Invisible one (11)

続きです。

「え?るーが見つかったんですか!?」

葉月さんのお母さんが瞳を潤ませて、身を乗り出す。

それに曖昧な返事で答える。

「あ、いやそれはまだ分からない......です......」

「でも、何かが起きたのは確実だ。どんな結果になるかは分からない。ただ、その......なんだ?まぁ......あたしらもまだ分からないってのが本音だな」

 どらこちゃんも、状況が分からないだけに言葉を慎重に選んでるみたいだった。

変に期待をさせちゃいけないし、絶望の淵に叩き込むようなことを言ってもいけない。

ただ、これから訪れる結果を受け入れる準備が必要なのだ。

それが私たちがここに来た意味。

前もって話しておく必要がある。

 葉月さんのお母さんが赤ん坊に駆け寄る。その足並みは軽かった。

人差し指で赤ちゃんのほっぺをつついて笑う。

「大丈夫。きっと大丈夫よ、あの子なら。私よりしっかりしてるもの」

「あぅ......でも、でもですよ!」

「大丈夫よ」

 私の方を見て、柔和に微笑む。

その目に宿るのは、過度の期待とかそういうのじゃなくて、強い信頼感というか......ともかく、準備は整っているみたいだった。

「結構、ちゃんとお母さんなんですね」

 家の窓が全開だったりと防犯意識が低いし、自覚はあるみたいだけどちょっぴり間抜け。

けれども、その佇まいはしっかり母親だった。

「ふふっ、ありがとう」

 言ってしまってから失礼だったと気づく。

慌ててわたわたするが、恥ずかしくなって姿勢を正した。

「まっ、ともかくきららたちもここに来るはずだから、それまで待ってようぜ」

 どらこちゃんが「肩の荷が降りた」といった感じでため息をつく。

「ところで二人とも......今日って小学校はお休みなの?」

「えっと、それは......ですね」

 それとなく目を逸らす。

「サボりだな」

 どらこちゃんがピースサインをして肩を揺すった。



「何これ?開かないんですけど!」

 服に染み込んだ水分も熱で全て蒸発した。なんなら少し温いまである。

「今のゴローなら壊せるんじゃない?」

 びくともしないドアに、八つ当たりで蹴りを入れる。

錆がパラパラ散っただけだった。

「流石に壊すのはちょっとあれニャ」

 言いながらしゅるしゅる縮む。

空気の抜けた風船みたいに舞い上がって、いつものゴローに戻った。

「わきに階段あるわよ」

 さくらが工場の裏側から周ってくる。

 その後について行くと、確かに建物の側面に階段があった。

その先には窓があり、都合よく割れている。

もしかしたら誰かが入ろうとして割ったのかもしれなかった。

「なるほどね」

 階段をゴローを先頭にして一列で上る。

一段、また一段と上る度に、風化した鉄が軋む嫌な音が鳴った。

自然と足を慎重に運ぶ。

「落ちたところで死ぬ高さじゃないわよ......。そんなビビんないでも......」

「び、びびっ?ビビッてないし?」

 赤錆だらけの手すりを掴んで、何段か飛ばして上る。

やっと上りきると、その高さにすーっと血の気が引くのを感じた。

もしかしたら、私は高いところが苦手かもしれない。

苦手なもの多いなぁと一人ため息をついた。

「ちょっと早くしなさいよ」

「はいはい......」

 さくらに急かされて、フレームだけになった窓を潜る。

 中に入ると鉄の匂いがより強く感じられた。

 外側と違って、内側の足場は錆びていない。

その足場を使って、反対側まで回ると梯子があるみたいだ。

「こっちに階段があるニャ......」

 梯子に向かって歩き出しかけたところでゴローに引き止められる。

すぐ横に階段があった。

 ゴローを追い越して、階段を駆け足で降りる。

が、その中途で思わず立ち止まる。

「ちょっと、いきなり立ち止まらない!」

 さくらが言うが、全く頭に入らなかった。

 私の視線の先、工場の床に人が倒れている。

その頭部からは血が流れ出していた。

「......そんな......」

「ちょっと......」

 さくらが痺れを切らして身を乗り出すが、私と同じものを見て言葉の勢いを無くす。

 思い出すのはゴローの言葉。

神隠しが隠していた「死体」。

「待つニャ!生きてるニャ!」

「え......?」

 私たちの立てる物音に反応して、指先がピクリと動く。

「ほんとだ!」

 急いで駆け寄る。

倒れているのは少しくせっ毛の女の子。その顔には確かにあの母親の面影があった。



 目を覚ますと、そこは病室だった。

記憶が曖昧で、何があったのかよく思い出せない。

廃工場に居たのは覚えているが、そこからどうなったのかが判然としない。

 無意識に伸ばした指先が、頭に巻かれた包帯に触れる。

「や。目を覚ましたみたいだね。君、病院内で結構話題になってるよ。どうも誰かに殴られたみたいだって、なんかあったの?」

 突然、横のベッドから話しかけられる。

そっちを見ると、ニット帽の女の子がこちらを覗き込んでいた。

「わ、私が見えるの......?」

「何言ってるんだい......君」

 隣の女の子は首を傾けるが、さほど気にしている様子でもなかった。

「あ、あなたは?」

 ニット帽の女の子に名前を尋ねる。

「わ、私!?私は......あー、と......実はえりくって名前なんだよね。変でしょ」

「......変」

「あ、あはは......」

 えりくさんが頬を引き攣らせて笑う。

そっか。私は今見えてるのか。

「ところで、君の話も......おっと」

 えりくさんが言いかけたところで、病室の扉が開く。

入って来たのは......。

「母さん......!」

「るー......!......よかった。心配したのよ!」

「あだっ、ちょっと痛いって......」

 母さんがベッドに飛び込んで抱きついてくる。

その体が擦り付けられる度に、激痛が走った。

「あ、その子肋骨やられてるからあんまり激しくしない方がいいっすよ」

 多少引きながらも、えりくさんが制してくれた。

 母さんの後に更に人が続く。

特に話したことがあるわけでもない同級生たちだった。

「おーっす。やってる?」

「それはどういうテンションなのよ......」

「意識戻ったんですね」

「なはは......。おまえらもうちょい静かにしたら?」

 母さんが体を離して、後ろのベッドに座る。

そのベッドに寝てる知らないおじさんが驚いていた。

「母さん......椅子だしなよ......」

「あぁ......ごめんなさい......」

 頭の脇で髪を結わえた子......確かどらこって名前だったと思う。その子がさりげなく椅子を用意する。

 突然現れた椅子に、母さんはなんの疑問も抱かずに座った。

「あれ?どっかで会った?」

「ひ、人違い!君とは会ってない!」

 ずっと不登校だったきららって子が、奥のベッドのえりくさんに話しかける。

あれ?ここ変な名前の人多くない?

 おおよそ病院には似つかわしくない賑やかさの中で、それを気にも留めず母さんが笑う。

「るー......お帰り」

「......ただいま」

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ