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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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Invisible one (10)

続きです。

「ゴロー!クラゲ見張ってて!」

「任せろニャ!」

 ゴローの体がみるみるうちに筋肉質になっていく。

でこぼこしたそのシルエットとは裏腹に、その肉体は引き締まっていた。

「パワードゴロー......参上ニャ」

「その見た目はもう固定なんだ......」

 腕組みするゴローに背を向けて、受け取ったランドセルの中を漁る。

中には色々あるようだが、手触りだけではいまいち分からない。

 一旦、後ろを振り返る。

ゴローのパンチで破裂音と共にクラゲが水風船みたいに弾けているのが見える。多勢に無勢なので、時期処理出来なくなってしまうだろうが今はまだ大丈夫だと判断した。

 ランドセルの蓋を全開にして中身を覗く。

「......」

 筆箱と、不自然に一個だけ転がった消しゴム、それから日の丸の扇子が入っていた。

 トタン板越しでさくらにじーっと視線を送る。

「ろくなものが入ってねぇ!」

「しょうがないじゃない。急いで出て来たんだもの......」

 まぁ仕方がない。

中身のラインナップが充実していなくとも、ランドセル自体を有効に使う方法を私は知っている。

「ゴロー、待たせたね」

 ランドセルの側面から翼が生える。

今回はさくらのランドセルのカラーリングに倣ってピンク色だ。

「それ負けフラグじゃない......」

「うっさい!相手が悪かっただけなの!」

 バーニアが赤熱する。

轟音と共に私の体は空へ引っ張り上げられる。

 相手の動きは緩慢。

おまけに射程の長い攻撃も持ち合わせていない。

 私の背後に、亜空間から出現したミサイルが並ぶ。細かい仕組みとかよく分からないけど、結果的にこの発射方法に行き着いた。

 クラゲたちがじわじわ近づいてくる。ゴローが何匹か捕らえるが、当然手が足りない。

だが問題も無い!

「フルバァァァァアストッ!」

 叫ぶ。

大抵の技は叫ぶと強くなると、どらこちゃんが言っていた。

 ミサイルは次々とクラゲの目玉に着弾していく。

命中したクラゲは破裂して、液体となり飛び散った。

「全弾命中」

 ミサイルの煙を煙幕にして更に上昇しながら、ドヤる。さくらの視線はこちらには向いていなかった。

 煙の隙間から、奮闘するゴローの姿が見える。一体ずつ着実に仕留めていた。

 まだたくさんのアンキラサウルスが居るが、この感じなら安全に対処出来るだろう。珍しく優勢だった。

「それじゃ......どんどんいくよ!」

 アンキラサウルスはどれだけ急ごうと、私より速く飛べない。

狙い撃ちするのも容易だった。

 こちらに向かうクラゲをミサイルのバーゲンセールで迎撃する。

空中に紫色の花火が咲き誇った。

しかしそれでもまだ止まらない。

漂う煙を突き抜けて、ミサイルが飛び出す。

そのたびに、一体また一体と数を減らしていく。

 薄くなった煙の中、ゴローが最後の一匹を弾けさせる。

それを見届けてから、再び地面に舞い戻った。

「ふふん。どうよ?」

 足元には大量の紫色の水溜り。

足をつけるとべちゃべちゃした。

「なかなかやるじゃない」

「出来ればもっと正確に狙って欲しいところニャ......」

 ゴローが煤けた体を払いながら、言う。その汚れっぷりから、当たったのは一発程度ではないことは検討がついた。

「ごめん、ごめん」

 へへへ、と笑いながら誤魔化す。

「ともかく、これでやっと工場に入れるよ」

 その錆びた扉を見据える。

「そうね」

 さくらもトタン板の下から、ひょっこり出てきた。

 扉に向かって一歩踏み出す。

足元の水溜りがべちゃりと音を立てた。

「きらら!」

「へ......?」

 ゴローが叫ぶ。

しかしもう遅い。

足元から迫り上がって来た紫色の液体が私の体を包む。

「なっ......ちょっとどういうことよ?」

 やがてそれらは私を取り込んで、巨大なクラゲへと姿を変えるのだった。

 息ができない。

焦ってクラゲの体内を泳ぐが、クラゲが生み出した流れに押し戻されてしまう。

 完全に油断していた。

あの散らばっていた液体は死んでなどいなかったのだ。

「きらら!今穴をぶち開けるニャ!」

 そう言ってゴローが拳をめり込ませる。

しかし、穴を開けるには至らない。

「くっ......衝撃が吸収されてるニャ」

 口から空気の泡が溢れる。

最後に泳いだのはいつだったか。

このままではこれが人生最後の遊泳になりかねない。

焦ってがむしゃらに手足を動かすが、その度に息苦しくなるばかりだった。

「どうすれば......?」

 ゴローが悩みながらも拳を打ち込む。その度に弾き飛ばされていた。

 徐々にクラゲが浮き上がる。

誰の手も届かない場所を目指して......。

 そのとき、ずっと黙っていたさくらが口を開く。

「いい?きらら。落ち着いて聞きなさい。その背負ってるランドセル......いや今はロケットか。それを点火するのよ。最高温でね」

 藁にもすがる思いだった。

何も分からないまま、飛行ユニットに意識を集中させる。

点火と同時に、背後から大量の泡が吹き出した。

「へぶっ......」

 突如体を襲った衝撃に思わず声が漏れる。

しかし、その自分の声を聞いて、そこでやっとクラゲの体外にいることに気づいた。

「水蒸気爆発ニャ!」

 ゴローが叫ぶ。

クラゲは煙を上げてよろめいていた。

「ダメ元だったけど何とかなった見たいね......」

 さくらが安堵の息を吐く。

 何が起きたのかは実はまだよく分かっていないけれど、これで倒し方は分かった。

 空中で再点火して、急停止する。

 あいつを倒せるのは熱なのだ。

液体ならば蒸発させればいい。

 怒りに体を震わせるクラゲを見下ろしながら、上昇する。

 拳を握りしめ、そして......急降下!

「何をするつもり......?」

 速度を増しながら、目玉を目指す。

風の音が耳元でうるさくなる。

そしてついに......拳に火がついた。

「そうか!摩擦熱ニャ!空気との摩擦で拳に炎を纏わせたんニャ!」

「はぁ!?色々とおかしくない?」

「きっときららはそういう屁理屈を捏ねてるニャ」

 さくらたちが何ごとか話しているが、きっと私の完璧な攻撃に対する称賛だろう。

「せいっ......やぁ!」

 炎の塊と化した拳が、傘の中央にめり込む。

衝撃が波状に広がり、そして次には熱が襲う。

紫色の体が泡で白く染まる。

ダメ押しで拳を押し込む。

「弾けた!」

 巨大なクラゲが弾ける。

紫色の液体を撒き散らすこともない。

 すとんっと、軽やかさを意識して着地する。

 ゴローたちの方を向いてピースサイン。

「どうよ?」

「なんて言うか......頭わる」

続きます。

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