Invisible one (9)
続きです。
国語の次は算数だ。
先生が黒板に何やら図形を書き始めている。
一通り書き終わると、授業内容について話だす。
「えー、今日は......」
しかしそこで言葉が止まる。
クラスメイトも何事かざわついていた。
逆に落ち着いている私たちが浮いているような感じさえした。
先生がメガネの位置を直して、口を開く。
「葉月さん......どうしたの?」
クラスメイトの誰も、答えるものはいない。
先生が出席簿を開く。
そこに書かれていることに更に違和感を覚えたのか、首を捻る。
「葉月さん、いつから来ていない?」
算数の授業は急遽自習になった。
先生は葉月さんの家に電話をしに、教室を出て行ったのだった。
「どういうこと......?」
机の中のゴローに聞く。
「座敷童か神隠しか、それは分からないけど、どちらかが能力を失ったニャ」
「つまり......?」
「今通行止めの場所に行けば何か分かるかもしれないニャ」
その言葉を聞いて、席を立つ。
今行かなければまた何も分からないに戻ってしまう気がしていた。
たった一つの手がかり。行かないわけにはいかなかった。
「ちょっと......!」
「ごめん、でも!」
さくらが引き止めるが、教室を飛び出す。クラスメイトの視線を集めて、廊下を駆け抜けた。
「ちょっと待ちなさいよ......!」
さくらが「相変わらず遅いわね」と横に並ぶ。その背にはランドセルまで背負っていた。
「あんただけじゃ道わかんないでしょ」
さくらが呆れた調子で言う。
今日は呆れてばっかりだ。
「ありがとう」
「ほんとに......あんたねぇ......」
背後に足音が増える。
「あたしらはとりあえず葉月の家に行ってみるわ!」
「です!」
どらこちゃんとみこちゃんだった。
こりゃいよいよ大事だなと、息を吐いた。
「みんな......怒られても私のせいにしないでよ」
「こっちよ」
さくらの言葉に角を曲がる。
すると、それは見えてきた。
道はカラーコーンで塞がれ、その枠の中を紫色のクラゲがうようよ泳いでいた。
「いち、にぃ、さん......。ダメだ。一体何匹居るんニャ?」
「何ここ?工場......?」
「元......ね」
道路を封鎖するバーを恐る恐る跨ぐ。しかしクラゲは私たちを気にかける様子はなかった。
「様子が変ね......」
さくらもバーを跨ぐ。
今まで私たちが見てきたアンキラサウルスはもっと凶暴だった。
このアンキラサウルスはそれらとは違うのだろうか、全く襲って来そうもない。
「普通じゃないニャ、こんなの」
「......」
しかし、戦う必要がないなら好都合。こちらも遠慮なく行かせてもらおう。
飛び交うクラゲたちを潜り、奥へ進む。
この場合目指すのは......。
「まぁ、工場だよね」
「そうね」
こんな場所あったんだと思いつつも、工場に近づく。
そして、その工場周辺の区画に立ち入った瞬間、視線が集う。
「きらら......!気をつけるニャ!」
「分かってる。さくらもどっかに隠れて!」
さっきまで無視をしていたクラゲたちの黄色い眼球が一斉に私を捉える。
さくらが私にランドセルを託して言う。
「でもこれで分かったわ。どうもこの工場には何かあるらしいわね」
「えっと......このランドセルは?」
「あんた道具無いとどうしようもないでしょうが......」
私の頭に軽くチョップ。
そして、近くのトタン板の影に潜っていった。
能力を失った以上さくらは普通の人間だ。攻撃されても、身を守ってくれる宝石はもう無い。
だから、私が守らないといけないのだ。
「いいよ。かかってこいよ」
「ボクらだってちゃんと成長してるってこと見せてやろうニャ!」
クラゲの影が幾重にも重なる。
連なった影は模様を描き、鎖のように地を這う。
工場の入り口を背に、クラゲの群れを睨みつけた。
続きます。