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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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Invisible one (8)

続きです。

始業のチャイムがなる。

今日の空席は二つだった。

葉月さんの席と、そして私の目の前の席。そうさくらの席だった。

「あれ?さくらさんはどうしたの?」

 気づいた先生が私に尋ねる。

 もちろん知らないので、視線をみこちゃんたちに送る。

ところが二人とも心当たりがないようで首を横に振る。

「えと......」

 先生への返答に困っていると、勢いよく教室の戸が開け放たれた。

「遅れました!」

 そこに居たのは、走ってきたのか息を切らしたさくらだった。

 結局さくらは先生のお情けで通常の出席扱いになった。

「遅刻とか珍しいじゃん」

 席に着いたさくらを、あの時の仕返しとばかりに笑う。

私って結構根に持つタイプかもしれない。

「ええい、うるさい!」

 さくらのチョップが飛ぶ。

白刃取ろうとしたが、抵抗虚しく脳天に直撃した。

「でも、ほんとにどうしたの?」

 机につぶれながらも聞く。

さくらの手は頭から離れない。

「通行止めになってたのよ......いつもの道。だから遠回りするハメになったわ」

 さくらの手刀が頭をぐりぐりする。

流石にそろそろ退けてもらえないだろうか。

「工事でもしてたの?」

 道路の再舗装とかときどき見るし、そういうのかもしれない。

「それがなんでもアンキラサウルスの大量発生らしいのよ。都会とかならアンキラサウルスで通行止めとか結構聞くけど、ここら辺では珍しいわね」

「アンキラサウルスねぇ......」

 さくらの住宅街の辺りは個人的にちょっと都会的だと思ってたがそうでもないらしい。これからは屋根が瓦かどうかで都会と田舎を分けるのはやめようと思った。



 外が騒がしい。

いや、音が聞こえるわけではないが、先程からちらちらと通り過ぎる影がきになるのだ。

 今までこんな事は無かった。

真昼の廃工場には大量のクラゲの影が飛び交っていたのだった。

そいつらはまるで何かを探しているみたいに、建物の周りを飛び回っている。

 窓から首を出すとあの時と同じグロテスクなクラゲが数十匹とその姿を見せる。

大きさもまちまちで、動きも統率のとれたものには見えない。

しかし、ここら一帯を離れることはなかった。

 心当たりは大いにある。

敵討ちでもしにきたのだろうか。

 いつもの定位置に戻る。

堂々と姿を晒しても、大きな音を立てても、見つかることはなかった。

いっそのこと見つけてくれとさえ思った。

 今となっては家出したことに後悔しかない。

新しい家族が産まれて、今度は四人での生活が何事もなく始まるはずだったのだ。

それなのに、私の家出の所為でそれは崩れ去った。

私はあまりにも幼稚だったのだ。

「......」

 膝を抱え込む。

誰も私が見えない。

たぶんそれは私自身の願いだったのだ。

私はどこかへ消えて、そして母さんが探しにきてくれる。

それを期待していたのだと思う。

 私だって弟が産まれたのは嬉しかった。けど、きっとほんの少しばかり寂しかったのだ。

 だから、家出してしまった。

それが今日までに気づいた自分の本心だった。

 結局、誰にも見つけられないまま、誰も知らないまま私は消えてゆくのだ。

 全てを受け入れて、全て諦めると途端に涙がぼろぼろ零れ出す。

今まで目を逸らしていた感情が溢れる。

止めようにも止まらず、呼吸ばかりが不安定になっていった。

「......ひっ......う......」

 自分のしゃくりあげる声が、空っぽの工場に響く。

 泣いたのは本当に久しぶりだった。



「何がなんだって......?」

 次の授業までに、銃で撃ち殺されたきつねの心境をノートに書いてこいと言われたが、全くピンとこないのでみこちゃんに尋ねる。

「だからぁ......ウニやウミキノコを届けてあげてたのに、撃たれちゃったらきららちゃんどう思います?」

「ぶちころがしてやる......?」

「いやまぁ、そこだけ切り抜くとそうなるかもしれないですけど......」

 そこにさくらが割り込む。

「人に聞くようなところじゃないでしょーが」

「あだっ」

 さくらの発言にはよく物理攻撃が伴う。控えめに言ってぶちころがしてやりたい。これがキツネの気持ちなのかと、噛み締めておいた。

「そんなことよりニャ!」

「そんなこととはなんだ!」

 ゴローが机から這い出す。

手提げカバンに入れていたはずなのだけど。

「そんなことより、アンキラサウルスの大量発生って言うのが気になるニャ。理由もなく大量発生なんてまず起きないニャ」

「そ、それって、葉月ちゃんのことと関係あるってことですか?」

「かもしれないニャ」

 葉月さんの行方不明と、アンキラサウルスの大量発生。

一見すると繋がりは見出せないが、今要因として考えられるのはとなると、やっぱり葉月さんなのだった。

「まぁ手がかりがないよりはって感じね......」

 ゴローが私を見上げる。

「うん。とりあえず今日行ってみようか」



 廃工場に足音が響く。

私以外のものだ。あのクラゲから逃げてきたにしては落ち着いている。

 情けなく端っこで座る私は、膝を抱える腕の隙間からその姿を覗いた。

足しか見えないが、同じくらいの歳の女の子みたいだった。

 思考が痺れて、ただボーっとその様を眺めている。

 その少女はコツコツ靴を鳴らし、真っ直ぐにこちらへ向かって来ていた。

「え......?」

 思わず顔を上げると、その少女と目が合う。目が合ったのだ。

「見えるの......?」

 少女は何も言わずに笑う。

 やっと。やっと見つけてもらえた。

お腹の底から、喜びが湧き出す。

生きているとも死んでいるともつかなかった体に血の巡りを感じる。

 私は今人の目に映っている。

私はここにちゃんと居るんだ!

 少女が鉄パイプを拾う。

その行動は不可解だったが、今のこの喜びの前には些細なことだった。

「やっと......やっと......!」

 帰れる。

母さんに会える。

大丈夫。弟ともうまくやっていける。

私はまた母さんに抱きしめてもらうことが出来るんだ!

 そして、少女が鉄パイプで私を殴打する。

 一瞬の出来事に理解が追いつかない。

殴られた痛みもない。

ただポケットの宝石が砕けたのを感じた。

 何も分からないまま少女を見上げた。

 少女は笑っていた。

そしてまた鉄パイプを......。

続きます。

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