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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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Invisible one (4)

続きです。

差し込む光が、床にそのまま窓の形を映し出していた。

今は下校時間のようで、どこからか声が聞こえてくる。

しかしその声はこちらに近づいてくる。

私がこの廃工場に来たとき、スナック菓子の袋がいくつか捨てられていたので、もしかしたら誰かの秘密基地的な意味合いを持つ場所なのかもしれない。

慌てて身を隠そうとするが、自分の姿が誰にも見えないことを思い出す。

急いで持ち上げた腰を再びその場に下ろした。

廃工場の外側の階段を上る音がする。

廃工場の入り口は割れた窓しかなく、内側に入るには今にもサビ落ちそうな階段を上ってくるしかないのだ。

その足音に少し違和感を覚える。

少し急いでいるというか、まるで何かから逃れようとしているみたいだった。

窓のフレームに手をかけて現れたのは安全帽を被った少年だった。

身長は低いので下級生だと思われる。

左右を見渡し、見つけた階段を下りてくる。

下りるとすぐに砂埃の溜まった角にランドセルを抱え込んでしゃがみこんだ。

その目は、窓の方向を向いている。

その視線をなぞって、割れた窓を注視する。

外側の階段を誰かが上ってくる音はしない。

二階の足場にも誰もいなかった。

誰も少年を追ってきているものは居ない。

けれどもあの少年の切迫した表情から、誰かに追われていたのは間違いないだろう。きっと遊びなんかでもない。

とすれば頭に浮かぶ単語はただ一つ。

「アンチキラキラモンスター......」

通称アンキラサウルス。サウルスはいったいどこから来たと言うのか。

最近言われ始めたものだが、その言葉は不思議なくらい世間に馴染んでいた。

そしてそれは、おそらく私にも関わりが深いものだ。

改名戦争。

どこかで聞いたわけでもないのに知っている。

そうだ。

今こんな目にあっているのは全部あの赤い宝石の所為なのだ。

私が家出してあの赤い石に出会った日から私は誰の目にも映らなくなった。

こんなところでうずくまってても、メガホン片手に叫んでも結果は変わらない。

誰も私を見つけてはくれないのだ。

「う、うわぁぁぁぁぁ!」

少年の悲鳴に、思考から現実に引き戻される。

割れた窓からは、紫色のクラゲが入り込んでいた。半透明の体に黄色い線が走っていた。

垂れ下がった触手が傘の動きに連動して揺れる。

その傘の天辺には黄色い蛍光色の一つ目がギョロギョロ蠢いていた。

その目は私を捉えることなく、少年を発見する。

「あ......あ......」

少年は角に身を隠していたのが仇となり追い詰められる。

このまま放っておいたらどうなるのだろう。

それは考えるまでもないことだった。

「どうせ見えてないんだ......」

近くに転がる鉄パイプの一番手頃なサイズのやつを拾う。

そのL字に曲がった先端を二階の足場に引っ掛ける。

そして逆上がりの要領で脚を蹴り上げて、足場に上った。

「まさか出来るとは......」

もともと運動は得意な方だが、ここまでのポテンシャルがあるとは思ってなかった。

しかしそんなことをしている場合でもない。

人の命がかかっているのだ。

それを無視するわけにはいかない。

急いでクラゲの真上まで移動する。

「......」

意外とある高さに一瞬躊躇うが、その位置から飛び降りた。

耳元でビューと風を切る音を感じる。

位置はずれていない。

その薄気味悪い目玉めがけて鉄パイプを振り下ろす。

「ふっ......」

全体重を乗せた打撃を食らったクラゲは地面に叩きつけられる。

その体は思いのほか弾力があるらしく、バウンドして壁にべちゃっとぶつかった。

私自身も跳ね返ってきた衝撃に後ろに飛ばされてしまった。

少年は状況が飲み込めず、見開いた目を動かせずにいる。

状況が分からないのはクラゲも同じだが、そいつの目はギョロギョロ私を探し回っていた。

「......見えない、か」

安堵の息を吐くが、胸中には少し残念だという思いもあった。

鉄パイプを握り直して立ち上がる。

振りかぶってどっちが前かもわからないクラゲに狙いを定める。

クラゲは私を見つけることが出来ない。

目の動きばかりが加速していく。

その体に鉄パイプをもう一度ぶち当てた。

向きを変えて握った鉄パイプのその先端。L字の部分がブドウゼリーみたいな体に食い込む。

反発するより早く、その体に穴を開ける。

パイプを振り抜く頃には、クラゲは紫色の液体となって弾けてしまった。

その液体はモロに少年の服を汚す。

びちゃびちゃで唖然としているが、とりあえずは目の前の化け物が消えたことに安堵しているようだった。

「お礼の言葉は無しか......」

見えていないので仕方ない。

鉄パイプを引きずって、定位置に戻った。

やがてその少年もどこかへ帰っていった。きっと服を濡らしたことを怒られたりするのだろう。

そう考えると、少し申し訳なく感じた。

続きます。

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