Invisible one (1)
続きです。
「ずっと気になってたけど、教室の右後ろのあの空席って誰ニャ?」
それは家で宿題をやっているときのことだった。漢字の小テストの成績が悪かったので追加で宿題を出されて、いつもより遅い時間までやっていたのだ。
そんな時間にゴローから不可解な発言が飛び出したのだ。
蒸し暑かったので開けていた窓から入り込む風が急に薄ら寒く感じて窓を閉める。
「ゴロー......空席なんて、無い......よ?」
今でも歯を磨いているときに鏡にゴローが映るとドキッとするくらい臆病なのだ、私は。
それなのにまるで怪談話みたいな話をするだなんて、ゴローも人が......猫が悪い。
「......あ、ぬいぐるみか」
今更だがぬいぐるみが動くのもかなり恐怖だ。
そういえば初対面はかなりビビったなぁと、一人思い出す。
「空席がないってことはないニャ!今までずっと空席だったニャ」
その話ちょっと忘れかけてたのに......。
「見間違いじゃなくて......?」
「見間違いじゃないニャ!」
しかし誰かがずっと欠席してるってわけではない。これは断言できる。
とすればその空席が私の眼中になかっただけの話かもしれない。
「空席なんてあったかなぁ......」
「だからあるって言ってるニャ......」
もし仮に空席があるなら、何故そのままにしてあるのだろうか。
片付ければいいのに。
「他の人にも聞いてみる?」
「他の人って......もう夜ニャ。今から会いに行くわけにはいかないニャ......」
「にっふっふ......さくらの電話番号教えてもらってんの」
電話でもどっちにしろ迷惑かもしれないが、まぁさくらだからいいだろう。
何より、ゴローの気のせいか、もしくは私の不注意かのどっちかで無理にでも納得しないと、今夜の安眠はありえなかった。
一回に降りて、電話の受話器を手に取る。階段が暗かったのでゴローも無理やり引っ張ってきた。
「なんで携帯電話の番号ってこんな長いんだろ......」
「そんなに変わらないと思うニャ......」
慣れない手つきでボタンを数えながら押すが、結局頭の中でこんがらがって分からなくなってしまった。
呼び出し音が鳴る間、意味もなく受話器のコードを引っ張っていた。
三コール目で電話が繋がる。
「もしもし?」
『何の用よ......』
受話器越しの怠そうな声。さくらと電話するのは二度目。けど電話にはまだ慣れない。
聞き慣れた声だけど、電話越しだと新鮮でなんだかくすぐったく感じられた。
「大した用事じゃないんだけど......」
『じゃ切るわ......』
「あぁっと......すてい、すてい」
『で!何よ!今テレビ見てるんだけど!』
電話越しの声は、苛立ちを隠そうともしない。
聞き耳を立てると、確かにドラマか何かの音が聞こえるようだった。
「あのですね......私たちの教室って空席あったっけ?」
『はぁ!?それだけで電話してきたの!?......やっぱバカね」
「うっさいなぁ......」
いいから早く言いやがれ。
こっちだってまだ宿題があるんだ。自業自得ではあるけど。
『うちらのクラスに空席なんて無いわよ。......ちょっと前まであったけど』
「ちょっと前まであったの!?」
その一言で、ゴローが座席の亡霊を見ていたのかと発想が飛躍する。
「その席だった子って......生き、てる?」
『何ビビってんのよ......。ほんと勘が鈍いわね。あんたのこと言ってんのよ......』
「......はへ?」
『だから......』
「あっ......そういうこと!なるほど!」
遅れてやってきた理解に、思わず声が大きくなる。
『あんたねぇ......』
その声からこめかみを押さえるさくらの姿が容易に想像できた。
「ごめん、ごめん。とりあえず今は空席はないんだね」
『まぁそうなるわ。用件はそれだけ?そうならさっさと切りなさい』
「はいはい、分かりましたよーだ」
悪態をつきながら、電話を切る。
直ぐ横にいるゴローの方を向いて勝ち誇ってみせた。
「ほら、ないじゃん......空席」
「おかしいニャ......。確かに......」
とはいえ、さくらが言うならかなり信憑性はあるだろう。
性格は悪いが嘘はつかないやつだ。
ゴローもそれは分かっているようで、少し考えこんでいた。
そんなゴローの頭に手を乗せる。
「まぁどのみち明日わかるよ」
「それもそうニャ。明日確かめようニャ」
ゴローを先導させて、再び自室へと戻った。
続きます。




