ランチタイム(8)
続きです。
負ったダメージもこちらが多い。
動きが素早いタイプなら、開けた場所に出て仕舞えばさらにその脅威は増すだろう。
だが。
それはこちらも同じことだ。
あんな狭い店内で、あたしとて本領発揮できるわけがない。
あたしの能力の攻撃性、それは熱・炎によるところが大きい。
つまり、舞台の広くなるのはこちらとしても好都合ということだ。
こちらを見て嗤っていた怪物は、一瞬身を屈めたかと思えばその姿を消す。
もちろん消えたわけではない。
跳躍を起点にした、高速移動だ。
店内のときのようにどこかに張り付いているわけでもないので、辺りに風を切る音が響く。
居るのは明らか。
だが、目視は叶わない。
怪物はあたしが手を出せないのを見てすっかり勝った気でいるのか、やがて駐車場の車を破壊しだす。
停まっている車が不規則に前触れなくひしゃげる。
金属の歪む鈍い音を奏でながら、怪物は機を窺う。
そして次の瞬間、あたしに薄い影が被さった。
来た。
この瞬間を待っていた。
追えないなら来てもらうほかないし、あたしに対象を絞って攻撃するなら必ず発生する減速。
そこを突く。
手のひらの中に火球を生み出す。
それを握りしめた拳を、接近した影に向かって突き出した。
確かな手ごたえを感じる。
熱を持ったそれは、既に一度傷ついた外骨格に甚大なダメージを与え、そして打ち砕いた。
剥き出しの筋肉に拳が潜り込む。
筋繊維を爪が引きちぎり、怪物の体内に火球を埋め込む。
その瞬間、怪物があたしを蹴って飛びのいた。
「ちっ・・・・・・!」
あと一押しだったが、離脱される。
だが、既にそれは大きな問題ではない。
ここまでくれば、あとは勝つか負けるかのどっちかだけだ。
距離をとった怪物は、着地と同時に腕を広げ光の粒子をばら撒く。
能力の根源、元となるエネルギーそのもの。
まだ相手のレベルだと、エネルギーをそのまま放出するしか出来ないみたいだ。
まぁだからといってそれで弱いということにはならない。
ただ、この場を切り抜けるには不十分だ。
ばら撒かれた光が、空気と反応して爆ぜる。
その光の隙間を縫って、怪物に駆け寄る。
残るは起爆の工程だけだ。
怪物に近づけば近づくほど、光の密度は高くなる。
だから上へ逃げる。
跳躍し、怪物の頭上に迫る。
まだ大技の最中の怪物は、迅速な対応が出来ない。
勝利を確信する。
上空から加速を乗せて、その脳天に拳を振り下ろした。
その衝撃は、怪物の体内に埋め込んだ火球に伝わる。
これで・・・・・・。
「起爆」
衝撃を受けた火球が、その形を失う。
体内から燃え上がり、膨れ上がり、一瞬の内に怪物を炎で包む。
燃え盛る炎のなか、怪物の影が揺れる。
もがき苦しみ、やがて崩壊していく。
どうやら、これで倒せたみたいだった。
続きます。




