ランチタイム(5)
続きです。
距離が縮まれば、その姿はすぐに捉えられる。
やや赤みを帯びた茶色い体。
その体には気味の悪い光沢がある。
今までの経験上、怪獣はいくつかのタイプに分けられることが分かっている。
今回はその中での、周囲の生命を取り込むことで自己強化していくタイプだ。
何せその見た目には多少見覚えがある。
虫、だ。
それも嫌われ者の。
おそらくスーパーに潜んでいたのを取り込んだのだろう。
羽などは見当たらないが、その体の質感や色合いは、どう見てもゴキブリだ。
この手の輩は、初めは微力なものが多いが、最終的に一番手がつけられなくなるタイプだ。
そして、今のこいつは・・・・・・。
どうやらもう一段階の進化を既に許してしまっているみたいだった。
身長は二メートル程に達しているかいないか程の大きさ。
しかし猫背なせいで、目の前に居るみこの母より少し背が高いくらいに見える。
筋張った筋肉をそのままかたどったような外骨格。
二本の細い脚で立ち、そして脱力しきった両腕をだらりと垂らしている。
頭部には目が無く、唇のない口から覗ける嫌に白い歯が不気味だった。
今、こいつがこんな姿をしているなら・・・・・・。
「人を・・・・・・食ったな・・・・・・」
あたしがもう少し早く気づけていれば、もしかしたらまだほとんど虫と変わらないうちに始末できたかもしれない。
誰も命を失わずに済んだかもしれない。
「・・・・・・クソ」
しかし今は後悔している暇も、じっくり観察している暇もない。
目の前に救える命があるんだ。
怪獣の前に躍り出ると、ひとまずみこ母の様子を確認する。
「君は・・・・・・?」
「あたしは大丈夫なんで、逃げてください」
困惑した様子の母に顎で指図する。
緊急事態故致し方ない。
向こうはあたしが子供だし、加えてたぶん見覚えがあるのだろう、ともかくそういった理由でさらに困惑を深めているようだった。
あまり誰かを背に戦うのは慣れていないが・・・・・・。
しかしわがままは言えな・・・・・・。
「おわ・・・・・・!?」
突然来る衝撃。
あたしの注意が逸れてる間に、向こうが先手を打ったみたいだ。
「あ、ちょっと・・・・・・!」
怪獣の突進を喰らいながら、焦るみこ母の声を聞く。
「心配は・・・・・・要らないっ!」
商品の乗った棚をぶち倒しながら体勢を整える。
ついでに怪獣の顔面をぶん殴る。
みこ母との距離は離れた。
これで存分に、戦える。
近くの冷蔵棚の冷気を浴びながら、顔面を殴られてよろめく怪獣とまみえる。
さて、正々堂々・・・・・・。
「戦おうじゃないか!」
敵を前にして、高揚する。
生を感じる。
この瞬間は、あたしが、あたしの暴力性が肯定される。
牙を剥く。
笑う。
獰猛でいい、乱暴でいい。
こいつら相手なら、優しさにこだわらなくていいんだ。
続きます。




